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コレクション: STAGE5

安政見聞録 下 - 翻刻

安政見聞録 下 - ページ 19

ページ: 19

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に神明の冥慮(みやうりよ)にあらずは。斯(かく)のごときに及(およ)ばんや。但往古(たゞそわうご)よりこの事 数度あり。大 抵(てい)六十年にして。一度行(ひとたびおこな)はるといふも。また不測(ふしぎ)ならずや。既(すで) に天保度の御蔭(おかげ)参りの節(せつ)。何方(いづく)ともなく 太神宮(だいじんぐう)の太麻(おはらひ)。空中(くうちう)より 降り来り。一郷(あるさと)に堕(おつ)る。当下(そのとき)その郷中(さとちう)のもの一人(ひとり)。参宮(さんぐう)を企(くはだて)て。心とも なくたち出るとき。是(これ)を聞傳(きゝつた)へてわれも〳〵と出るより。終(つひ)に一郡(いちぐん)に 及(およ)び一国(いつこく)に及(およ)ぼす。或(ある)人伊勢の山田に居(を)りしが。かの太麻幾箇(おはらひいくつ)とも なく降(ふつ)て。町 武(ぶ)の屋上(をくしやう)に堕(おつ)る。人々 不測(ふしぎ)におもひ。伊勢(いせ)の神官(しんくわん)に問(と) ふに。かの家々(いへ〳〵)において失(うせ)たる太麻(おはらひ)。一箇(ひとつ)もなしと答(こた)ふ。実(じつ)に神変(しんへん) の不可思議(ふかしぎ)を識るとそ。このときは中国畿内(ちうごくきない)に。多(おほ)く降(ふ)りてその 所(ところ)より。誰(たれ)となく参詣(さんけい)を始(はじ)め。東国西国北陸山陰山陽(とうごくさいこくほくろくさんいんさんやう)の国々(くに〳〵)。 挙(こぞ)つて参宮なしけりとぞ。這(こ)は近(ちか)き世(よ)のことにして。誰々(たれ〳〵)もなく知 れり。箇様(かやう)の奇瑞(きすゐ)は大日本(だいにつほん)。三千七百 餘坐(よざ)の神社(じんじや)に。伊勢より外 あることなし。故(ゆゑ)に這回(このたび)の天災(てんさい)にも。この神の護(まも)り給ふ。更(さら)に所謂(いはれ)な きにあらず ある人 強(しひ)て議論(ぎろん)を立(たて)て。このことを詰(なじ)りていはく。それ 神宮万民(しんぐうばんみん)を 憐(あは)れみ。この天災(てんさい)を免(まぬか)らしめば。洩(も)るゝ者なかるべきに。或(ある)ひは燔死(やけしに) 或(ある)ひは壓死(おされしす)のその員少(かずすく)なからず。されば 神明(しんめい)人によりて。贔屓(ひゝき)ある ものに似(に)たり。這は例の奇(き)を好(この)む族(やから)が。いひ出たる虚言(いつはり)ならん。かく のみいはゞ。亦如何(またいか)にして。袂(たもと)に毛のありやといはん。這(こ)は思ふに天保壬(てんほみづのえ) 申(さる)。諸国凶(しよこくきようさく)なりし年。東都(とうと)に毛を雨(ふら)せしことあり。今 猶(なほ)その毛を 蔵(ざう)する人あり。その頃世間(ころせけん)の風説に。或人獣(あるひとけもの)の毛を晒(さら)せしに。大風(たいふう) 来りてこれを捲(ま)き。普(あまね)く雨(ふら)せしなンど。種々(さま〴〵)にいひあへりしが。全(まつた)く