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【右頁】
一町内一ヶ村(いつてうないいつかそん)のうち若一人不養生(もしいちにんふやうぜう)にして此病(このやまゐ)に感染(とりつか)るゝことあれば瞬間(またゝくうち)に其(その)
毒(どく)を全町満村(まちぢうむらむら)に傳播(うつ)して無數(あまた)の生霊(いのち)を堕(おと)すべきほどの惡病(あくびよう)なることは人々の知(しる)と
ころれなば乃(すなは)ち其身一巳(そのむひとり)の養生(やうぜう)は天下萬人(てんかまんにん)のためにして不養生(ふやうぜう)の人は政府(せいふ)の罪(ざい)
人(にん)とも云(いふ)べきなり然(これ)ば人々/其身一個(そのみひとり)の用心(ようじん)こそ至極肝要(しごくかんよう)の事(こと)としるべし因(より)て茲(こゝ)
に内務省衛生局(ないむせうゑいせいきよく)の報告(ほうこく)を標準(めあて)として其他心得置(そのほかこゝろにおく)べき事件(ことがら)を各國名家(かくこくめいか)の示教(をしえ)に
拠(よ)り其樞要(そのかんよう)を抜摘(ぬくがき)し文字(もんじ)鮮(すくな)き田野人(いなかびと)のために文意(ぶんゐ)を平易(やすく)して以(もつ)て廣告(ひろくつげ)んとす
毒疾証候(やまひのおこり)
虎列刺病(これらびやう)は最(もつと)も急性(きうせう)の悪症(あくせう)にして其毒質(そのどくしつも)は一種(いつしゆ)の生活保有(せいくわつほゆう、いきたるむし)の有機物(ゆうきぶつ)にして多(おほ)
く地中(ちのうち)の水(みず)に潜存(ひそみゐ)て又/空氣中(くうきのうち)にも浮游(うか〳〵)する物(もの)のごとし此毒自然人(そのどくしぜんひと)の口中或(くちあるひ)は
皮膚(けあな)より躰内(たいない)に入(い)り直(すぐ)に消食機(しようしよくき)[膓胃]を侵(おか)すゆへに最初(はじめ)は稍心下(やゝむなさぎ)に苦悶(くるしみ)を覚(おぼ)
へ尋(つい)て便意嘔吐(くだしはきけ)を催(もよふ)し初(はじ)め一行(ひとたび)は大概通常(たいがいつね)の大便(たいべん)に少(すこ)し水液(みづゑき)を混(まじ)へ腹痛(ふくつう)もなく
下利(くだ)す爾後病人自(そのゝちびやうにんおのづか)ら惣身(そうしん)の水液腹部(しるはら)に流(なが)れ集(あつま)るの氣味(きみ)を覚(おぼ)ふ二行目(にどめ)の上厠(ちようづ)
【左頁】
より多(おほ)くは洗米汁様(こめのとぎしるやう)の液(しる)[重(おも)きは血(ち)を混(まじ)ゆ]のみを瀉した(くだ)し四肢製厥冷皮膚水(てありぞく〳〵ひにはだはみず)
に濡(ぬれ)たるがごとくなりてこれを摘(つま)みあぐれば其儘(そのまゝ)にして平/膚(はた)に復(かへ)らず咽喉渇甚(のんどかわき)
小便通(しようべんつう)ぜず聲漸(こゑやうや)く涸(かる)れば暫(しばらく)して死亡(しぼう)するなり最(もつと)も急(きう)なるものは只初(たゞはじ)めの
一瀉下(ひとくだし)のみにて十分時間(じうぶんじかん)に斃(たは)るゝもなりかくのごとく確(さし)たる前兆(しるし)もなく頓發(にはかにとり)
するものなれば平生(つね)に豫防養生(よぼうやうぜう)を怠(おこた)るべからず
豫防養生法(やぼうやうぜうはふ)
虎列刺毒(これらどく)は多(おほ)くは病者(びやうじや)の吐瀉(はきくだし)せし物(もの)の中(うち)にありて此毒早晩地上(このどくいつしかちぜう)に落散降雨(おりたりあめ)と
共(とも)に地中(ちゝう)にしみこみ其近傍(そのほとり)の井又(いどまた)は河水(かはみづ)に混(こん)ぜしを飲(の)み或(あるひ)は病者(びやうじや)の觸(ふれ)し衣服(いふく)
器具等(うつわとう)より傳染(うつる)を最(もつと)も多(おほ)しとす又吐瀉物(またはきくだしもの)を投捨(なげすて)たる河海(かはうみ)に生(せう)する魚類或(さかなるゐある)ひ
は吐瀉物(はきくだしもの)を培養(こやし)にしたる蔬菜(やさい)を食(しよく)して感染(わづらふ)ことあり又/其毒(そのどく)ある水(みづ)を飲(のみ)し牛乳(うしのち)
に此毒(そのどく)を含胎(ふくみ)ゐたることありかくのことく人間必要(にんげんひつよう)なる飲食物(いんしよくぶつ)より傳染(うつる)ものな
れば力/及所注意(なるたけこゝろがけ)すべきなり但(たゞ)し平常豫防法(つね〳〵よぼうはふ)によく行届(ゆきとゞ)き腹中健全(はらのうちたつしや)なるものは