翻刻
僕(やつがれ)若(わか)かりしより料(れう)理(り)てふ事を業(わざ)として。四(し)季(き)をり〳〵の
漬(つけ)物(もの)はたやさず貯(たくわへ)て。自(みづか)ら誇(ほこり)つ人(ひと)にも贈(おくり)たりしに。後(のち)はいつと
なく漬(つけ)物(もの)をのみ鬻(ひさく)やうには成(なり)たるなり。さるからになり物(もの)野(や)菜(さい)
の類(るい)。何(なに)くれとなく漬(つけ)てたくわへもたずといふ事なし。今(いま)又/常(つね)の
漬(つけ)物(もの)は皆(みな)家(いへ)毎(ごと)に知(しる)ところなるを。こと〴〵しう並(なら)べいはんも
おこがましき事(こと)ながら。秋(あき)雨(さめ)の夜(よ)ばなしを傍(かたはら)に人
ありて記(しる)したれば。猶(なを)あやまりたるも多(おほ)かるべし。其(その)罪(つみ)はゆるし
給へといふ 八百治に代りて 好食外史
漬物塩嘉言序
料(れう)理(り)本(ほん)膳(ぜん)の手(て)厚(あつ)き。二(に)汁(じう)三(さん)汁(じう)を椀(わん)に盛(もり)。五(ご)菜(さい)
七(しち)菜(さい)の器(うつわ)を並(なら)ぶるとも。香(かう)の物(もの)なき時(とき)は立(りつ)派(ば)な
行(ぎやう)列(れつ)に押(おさへ)なく。お座(ざ)敷(しき)狂(きやう)言(げん)に祝(しう)儀(ぎ)をつけざるが
如(ごと)し。京(かみ)摂(がた)には家(や)建(だち)造(ざう)作(さく)をさしてつけものと
いふ。関(くわん)東(とう)につけものと呼(よぶ)は。香(かう)の物(もの)の事(こと)にして。
漬(つけ)ると唱(とな)へ押(おす)といふ。つけるといふは戯場(しばゐ)の禁(きん)
句(く)。おすといふのは吉(よし)原(はら)なまり。人(じん)品(びん)威(ゐ)光(くわう)ある