翻刻
仰に姫はと御尋あり諸人しり奉らぬよし申す又やとおほし
めしていそき春(とう)宮へ御入なされ給ひゑいらんあれはいつよりか
ほはしまささるらん神さひて人もなしちかき方様の女房 采(うね)
女へ御尋あれ共たれも知たる申者なし大王はかさねての御な
けきの御 涙(なみた)千行(せうこう)也やう〳〵日かつも百日はかりにならせ給ひける
時余の御かなしさに大王は清 冷殿(りやうてん)へ光儀あつて花その山を御
詠(なかめ)ありて一かたならぬ御思ひに御 泪(なみた)にむせはせふししづみ給
うちしほれてそおはしける公卿大臣もかんるいをもよふし
誰(たれ)も云事もなくさんこをしづめて居給ふ所にせいりやう
でんの御花そのゝ小庭ににはかに北より光さして殿の内をて
らす事 御(み)門あやしくおほしめして急(いそき)はかせをめされ□
るゝはかせ申けるは此地の下にいかさま人有仏の影向(やうこう)有所か
また鬼(き)神 魔(ま)王の位か地より七尺 底(そこ) に化たる物有べし
とうらなひ出す公卿大臣其外なみ居たる人々一度に
坐しきをさつと立かの小庭におとりをりわれも〳〵と
土をほり給へは六位 雑(はう) 人【ルビはさうにんの誤りか】も土をのくる事なゝめならす
やう〳〵六尺はかりほりいたし見奉れは帝の御てうあい
たる金色(こんちよく)姫宮渡らせ給ふ急(いそき)守(もり)奉れて大王の御目に
かけ奉れは御よろこひはかきりなし姫宮にとりつき給ひ
て悦(よろこひ)の御 涙(なみた)又せきあへ給はす帝の仰には是しかしな
からけい母のわさなるへし此国にをひて毎度うきめを見
せんよりはいかなる国へもつかはしすてゝ此国になしと思はゝ
中〳〵思ひたへてよかるへしとて宦人に仰付られ桑(くわ)の木を
もつてうつほ舩を作り海辺に大王と姫君 行幸(きやうこう)なつてかの