翻刻
うつほ舟に姫宮をつくりこめ給ひてのたまはくなんぢ
は生まれる時よりも只人にあらすいかさま仏神三宝の化
身也とおほゆ此国に居てつらき目にあはんより仏法流布
の国にゆられ依る衆生をも済度し給ふへしとて御涙
と共に沖へそをし出し給ふ多の公卿大臣百官万民に
いたるまてなこりをおしみ給ふことかきりなし大王は其まゝ
内裏へは還御(くわんきよ)成給はすして其 海(うみ)のほとりに合浦(かつうら)に続(つゞ)
ける原有此原は桑の木のみしけりたり此処に殿(てん)をいか
にもあさましく作らせ給ひてすませ給ふなり王位をは
あさましき事におほしめし世 捨(すて)人と成て姫宮のめされ
出させ給ふうらを朝夕なかめくらし思ひあかし給ふと
なんそれより桑原院(くわはらの)と人申き去 程(ほと)に世捨人とは桑の門
と書也世をすつる人とはよすても書り世すて人は世のうき事
をうらみさかりなりし世をすつるを云也世捨人とはうき
世にすみ侘て世に捨られし人也 去程(さるほと)にかのうつほふね舩は
蒼波(さうは)万里をしのきつゝゆられ来るなるやへの塩路(しほち)いつれ
いつともしらすしら波(なみ)のうき世にしつむ身の行衛おぼ
つかなくおほへたり多の星霜(せいさう)を送りむかへて此秋津(あき〇)
洲(す)のあつまのはてひたちの国とかやとよらの湊(みなと)に
よりにけり其うらに権太夫と云浦人有ある時 釣(つり)の
為に小舩にさほさひて海つらへ漕(こき)いつかの太夫此うつ
ほ舩を見いたしすはや浮(うき)木のよるによりと思ひ薪(たき)に
せんとて浦へ引上うち破(やふり)て見れはかたしけなくや金玉
をみかきたるかことくなる姫君壱人おはすそれ男見て