翻刻
【右丁】
南海にあり七日の日に至り乾の風強くハヱ縄桶三ツ迄
流したるを二ツ返えり上東の御ハ□に漂ひ夫より再ひ
乾の方へ流さる櫓四丁共悉く折れ損し只風に任
せて流れゆく十日風雨益強く衣服各氷りて患難
甚し十二日の暮方に至りて藤九郎と云鳥海上に浮ふを
見る船頭伝蔵より一同へ申候は此鳥浮ふは必近き辺り
に島有べし各心を附べしとて海上を見渡す処に果
して石の島あり辛ふして此島近く船を寄けれは
岩石屏風を立たる如にして船を付(つく)へき処なし
兎角する中少しく平なる処を見付夫を目当に
船をつかし五人共上陸す是十三日四ツ頃の事也
【左丁】
一各餓に望み船破れ折れしかく働き出来かたく
岩に取付たるまゝ手に流れ掛る海苔の類を取食ふ
是にて其さまおもひ遣るべし
一其島食物なし彼藤九郎を巣をくひ居たるを取
或は乾かしまたは生にて汐にもみて食ひし也
一水なかりしを甚難義す漂着の節水桶三ツ磯に
寄りたるを捨り取岩よりしたゝる水をとり置て飲也其
水も少しく日和続き候節は切れ申侭小便を手にため
飲て■【注】を凌きしが夫迚も飲もの少なるれは小便も至て
少しくなりし也
一磯に岩の穴有是を常の住居とす東向也
一島の廻り半道計り草木を生せずシヤシヤブ芦萱の類は
【注 ■は「餲」ヵ「渇」の誤ヵ】