翻刻
処によりて生ず頂上平ラにして井あり斯に濁りたる
水を飲み大に力を得ると云又墓の如きもの二ツ有
一四月中に至り藤九郎鳥の巣をたちて食物なし磯辺に
出て海苔の類を取り食ふ此藤九郎鳥子を育るに
鰯又ハ鯨の肉をくわへ来る是を追落して魚肉□食す
る事を得たり
一五月三日四日頃は一日餓て働き得す其中にも重助は病
体にて以前病み伏すたるを海苔類を取与へて兄弟とも
看病なす也
一万次郎義はかく計り餓に及ふといへ共気丈けなる者にて
元気を損せす健やかなりしとぞ
一五月三日四日頃沖合より大船来る帆げたの磯寄りしたる
に衣をくゝり是を揚招く右大船島近くよせいんげん
豆の如き小船をおろし五右衛門寅右衛門万次郎をのせ
帰らんとす尚跡に弐人残りたる由仕方して再ひ船を寄せ
伝蔵重助をも乗せ帰る也
一此大船は大東洋アメリカ国の鯨船にて船頭をフイツルト言
伝馬ハ船積の船なり
一洋中鯨を取るには鯨を見付けたる時八艘の伝馬を
おろしもりを以て追突にし肉と皮の間に長刀の□□
刃物をいれ皮を取り肉は洋中に捨置前に記す通リ
藤九郎の鯨肉をくわへ来るが■鯨船のすてし肉なり
一鯨の油を取は前に取たる油カスを焚きとり申よし
油は樽に詰め又は蝋燭の如きものに■【なヵ】す也