翻刻
第二
かくて中宮くわてうのまへ。大内のそうどうゆへかづさの介がはからいにていどほり弥介おい参
らせいせのくにふたみがうらへをちさせ給ひ。しん王もろ共ひなのすまいの物思ひ。きむら
左京しゆごし奉り。ふかくしのばせ給ひける。有時御太子しん王らは。つくゑによりそい給ひ
つゝ。まことにゆき平【在原行平】の中なごんつみなくてはいしよ【?】の月をなかめしと。口ずさみ給ひし
も今御身のうへにあたりたりと思召。みやこのそうどうに父みかどは何とかならせ給ふぞ■【と?】。
御ゐ【御衣】のたもとをかほにあてさせ給へは。中宮あわぢみ給ひ。何とて御心ほそくの給ふぞおつ
付御よ【御世】に出給はん。まづ〳〵御心をなぐさめまじませとの給ふ所へ。しほやく【塩焼く】女のやさしくも。
御なぐさみにとてはなぐるま。うをつりざほをもち来り。あん内をこいけれは。あはぢのつほ
ね立出やうすを聞は。私はすまと申ものにて。■さきやう様にち【?】とたいめん申たきといへば。あはぢ
聞たゞ今は御るす也。何にても申おかせ給へ。然らは是をかみへあげてくださりませと。はなを渡
す。あはぢふしぎながらしんわうに申せは。ゑいかんまし〳〵かの女にたいめんある。すまつりざほを
さし出し。きのふのさほほそく候へは。是をとてさし出す。しんわう悦び申。中ぐうさま。あの女はやさ
しくもまい日我をなぐさめくれ候。是はつりざほと申てうをゝつる物也。いざなぐさみにとうみ
へ入給へは。あまの長五郎らといふもの。此つりざほにくい付うみゟあがれは。みな〳〵をどろきにけ
【左ページ】
給ふ《割書:はまにてあまの長五郎|いろ〳〵だうけせりふ》長五郎はもつたいなくも。しんわうに心をかけ御しやうぞくを身にまとい
おもひのたけをあかしけれは。しんわうふびんに思召。なさけのことばを給はれは。長五郎うれし
く此うへはいやしきあまの事なれ共。一めいをさしあげ候とたはふれゐる【?】。《割書:長五郎|ぬれ有》然る所へ■兵衛【?】
かへり長五郎がていをみて。いかに御ゆるさればとて此ていは何事ぞ。いやせうぞくは某ゆるして有。
其ものはそれ成すまがつま也。してけふのしゆびはいかゞと仰給へは。さきやう■■。さして■づかはし
き事にて■■す【あらず?】。しまもりひぜんのかみにたいめん申候が。なに共なんぎ成事をねかい候。へつ
の事に候はす。しんわうさまへ御めみへ申たきよし。たゝ今まで申さぬ事をこいねがふ。此みぎり
なれは人の心はたのまれず。もし二ごゝろ有もしらず。又御たいめんあらぬもいかゞなり。又ひぜんの
かみ君をみしりたる事は有まじ。何とぞ君のすがたになしいつわり御たいめんいたさせん。たれ
よかれよとしあんをめぐらし。そばに有しあまの長五郎が■■をみて。是々あのものを■■
のことくにしつらい申さんと。長五郎にくはしくゆいきかせ■への御■■なりといへはやれ事■とて成べき
とせういん【承允】せず。女ばう長五郎にむかい。是たゝ今もきみへならは命をさしあげんとはの給はぬか。ゆへ
は又命ゟ心やすき事。君のおためなりひらにといへば。長五郎うなづきしからはいかやう□□申
さんと。かぶり。しやうぞくきせしんわうのすがたとなる。左京悦びしまもりを今や〳〵と待にける。
《割書:此所にて猪五郎みかどの|ことばをならふだふけ【道化】有》所へひぜんのかみ御めみへとて来る。左京立出御とりつぎ申しんわうの