翻刻
が|風景(ふうけい)|極(きは)めて|類(たぐ)ひなし
|此所(このところ)の|湯(ゆ)は|大瀧(おほだき)|小瀧(こだき)|穴(あな)の|湯(ゆ)など|種々(しゆ〳〵)の|名(な)ありと|雖(いへど)
も|皆(みな)|同質(どうしつ)なり|就中(なかんづく)|穴(あな)の|湯(ゆ)といふは|旧(きう)|奈良屋(ならや)|即(すなは)ち|平(ひら)
|松某(まつぼう)|別荘(べつさう)の|前(まへ)にありて之を|元穴(もとあな)又は|元湯(もとゆ)といふ|其(その)
|口(くち)の|経(わたり)|凡(およ)そ九|尺(しやく)|許(ばか)り|奥行(おくゆき)二|間(けん)もあるべし|総(すべ)て|此穴(このあな)
より|湧出(わきいづ)るなり|此穴(このあな)へ|入(い)るに|法(ほう)あり|先(まづ)|莚(むしろ)やうの|物(もの)
を|背(せ)に|負(お)ひ|尻(しり)の|方(かた)より|後(あと)ずさりに|専(もつぱ)ら|頭(かしら)を|下(さげ)て|湯(ゆ)
|壺際(つぼぎわ)まで|至(いた)るなり|但(たゞ)し|出口(でぐち)の|方(かた)へ|向(むか)ひ|居(を)れば|忍(しの)び
よくして|次第(しだい)に|暖(あたゝ)まり|来(く)るに|随(した)び|惣身(そうしん)より|汗(あせ)|浸(したゝ)り
|心地(こゝち)よき|事(こと)|喩(たと)ふるに|物(もの)なしといふ|然(しか)るに|近頃(ちかごろ)此|穴(あな)
に|入(い)れざるよし|湯宿(ゆやど)には|内湯(うちゆ)|瀧湯(たきゆ)ありて|昼夜(ちうや)|流(なが)れ
|出(い)づ|此所(このところ)は|山水(さんすゐ)の|景(けい)に|富(とむ)と|雖(いへど)も|道路(どうろ)の|不便(ふべん)なると
|湯宿(ゆやど)の|古(ふる)びて|手(て)を|入(い)れざる|故(ゆゑ)にや|酷暑(こくしよ)と|雖(いへど)も|常(つね)に
|浴客(よくかく)|少(すく)なく大に|衰微(すゐび)の|色(いろ)を|現(あらは)し|山上(さんじやう)の|宮(みや)の|下(した)とは
|雲泥(うんでい)の|相違(さうゐ)なり
〇|温泉(おんせん)の|性質(せいしつ) |硫鉄(りうてつ)の二|気(き)を|混(こん)ず
〇|主治功能(しゆぢこうのう) |全身衰弱(ぜんしんすゐじやく) |筋肉(すぢにく)の|弛(ゆる)み |傷冷毒(ひへしやう) |脚(かつ)
|気(け) |中風(ちうふう) |月経閉塞(けつくわい) |痔疾(じしつ) |頭痛(づつう) |疝気(せんき) |喘(ぜん)
息(ぞく) |眩暈(めまひ) |打僕(うちみ) 又|此湯(このゆ)は|腸胃(ちやうゐ)|喉頭(こうとう)|気管(きかん)|膀胱(ほうくわう)
|等(とう)の|慢性(まんせい)カタールに|飲用(いんよう)して|功(こう)ありといふ