翻刻
洋人(ようじん)の多(おほ)く来(きた)る所(ところ)ゆゑ和洋(わよう)と区別(くべつ)を立(たて)しなり然(さ)
れど浴客(よくかく)の随意(ずゐい)に待遇(たいぐう)し又|西洋(せいよう)|料理(れうり)をも調進(てうしん)せ
り
同所(どうしょ)藤屋(ふじや)|勘(かん)右衛門も又|旧家(きうか)なりしか故(ゆゑ)ありて先(せん)
年(ねん)横浜(よこはま)なる神風楼(じんふうろう)山口(やまぐち)千之助に譲(ゆづ)りたり依(よつ)て神(じん)
風楼(ふうろう)と改(あらた)め同所(どうしょ)高躁(かうさう)の地(ち)に廣大(くわうだい)の洋館(ようくわん)を築造(ちくざう)し
傍(かたは)らに日本風(につぽんふう)茶座敷(ちやざしき)やうの平家造(ひらやつく)りを建(たて)是又(これまた)和(わ)
洋(よう)の区別(くべつ)を立(たて)奈良屋(ならや)と拮抗(きつこう)せり且(かつ)近頃(ちかごろ)神風(じんぶう)の称(とな)
へを廃(やめ)て旧(もと)の藤屋(ふじや)に復(ふく)したり此字(このや)にも湯瀧(ゆだき)あり
湯瀧(ゆだき) 湯瀧(ゆだき)は温泉(おんせん)の水脈(すゐみやく)を樋(とひ)より筧(かけひ)に移(うつ)し浴室(よくしつ)に
仕懸瀧(しかけだき)の如(ごと)く落(おと)しかけて病(やまひ)を打(うた)するなり此瀧(このたき)に
打(うた)するに法(ほう)あり其(その)概略(がいりやく)は先(まづ)湯瀧(ゆだき)にかゝるには初(はじ)
めて温泉(おんせん)に来(きた)る人(ひと)其日(そのひ)直(たヾ)ちに瀧(たき)に打(うた)すべからず
一留日|湯槽(ゆぶね)に浸(した)りて後(のち)瀧(たき)にかゝるべし初(はじめ)めより
打(うた)する時(とき)は病(やまひ)必(かな)らず動(うご)きて血冶(ちおさ)まらす偖(さて)一留日
を過(すぎ)て瀧(たき)へかゝらんと思(おも)ふ時(とき)篤(とく)と湯槽(ゆぶね)に入(いり)て暖(あた〱)
まり透(とほ)りたる頃(ころ)己(おの)が病(やまひ)の痛(いた)み所(しょ)又は何處(いづく)なり
とも打(うた)すべくかゝりて仕舞(しまひ)なば又|湯槽(ゆぶね)に入(い)るべ
し必(かなら)らずしも一|概(がい)に瀧(たき)にかゝる事(こと)なかれ又かゝ
り切(きり)にて出(いづ)べからず瀧(たき)は氣(き)を冷(さま)すものなり必(かな)ら