翻刻
|地震(ぢしん)の騒(さわ)ぎ。|煙草(たばこ)|壱服(いつぷく)おとさぬうちに。
上(かみ)は|長岡(ながおか)|新潟(にいがた)かけて。中(なか)に|三条(さんでう)|今町(いまゝち)みつけ。
|在郷(ざいごう)|村々(むら〳〵)その数(かず)しれず。潰(つぶ)す|家数(やかず)はいく
|千万(せんまん)ぞ。|垂木(たるき)梁(うつはり)柱(はしら)に桁(けた)に。|背骨(せぼね)|肩骨(かたぼね)頭(かしら)
をうたれ。|目口鼻(めくちはな)より血(ち)を吐(はき)ながし。|遁出(のかれいで)んと
|狂気(きやうき)のごとく。もがき苦(くる)しみ実(げ)に痛(いた)はしや。
|手負(ておひ)|死人(しにん)は書(かき)つくされず。数もかぎりも
あらましばかり。親(おや)は子(こ)を捨(す)て。子(こ)は親(おや)を
すて。飽(あ)かぬ|夫婦(ふうふ)の中(なか)ともいはず。捨(す)てて|逃行(にげゆく)
|其行先(そのゆくさき)は。炎(ほのふ)燃(もへ)たつ|大地(だいぢ)がさけて。砂(すな)を
|吹出(ふきだ)し水(みず)もみあげて。行(ゆく)にゆかれず彳(たゝずむ)
うちに。風(かぜ)は烈(はげ)しく後(うしろ)を見れば。火(ひ)の粉(こ)
吹(ふき)たて炎(ほのふ)をかぶり。熱(あつ)やせつなやくるしや
怖(こわ)や。中(なか)に哀(あはれ)は|手足(てあし)を挟(はさ)み。肉(にく)をひしがれ