翻刻
右の図は正戸(オモヤ)の柱と庇(ヒサシ)の柱と貫(ヌキ)を差通しこみ
ぜんを打込庇のわかれざる様 ̄ニ手堅(テガタ)く繋(ツナ)ぎ留たる
図也たとひ長 ̄サ十間二拾間の長屋建の庇にても
間口二間或は三間の間にて数ケ所如_レ此繋く時は
如何なる劇烈(ゲキレツ)の大地震|大嵐竜巻(オヽアラシタツマキ)にても破壊崩墜(ハエホウツイ)【左ルビ:ヤフレクツレヲチル】
の患決して有べからす尤庇にも筋違を打べき処有
ば工夫して切込打附べし
〇凡土蔵の建方(タテカタ)は何方(イツカタ)も同様六七寸角の筋性(スジシヤウ)
よき大材(タイザイ)を柱となし内面(ナイメン)は柱貫ともに鉋(カンナ)をかけ
壁は白土(シラツチ) ̄ニする事世の習俗(ナラハシ)也然れども是唯|虚美(キヨビ)
にして地震火災の凌(シノキ)には聊(イサヽカ)もなるべからず無益(ムエキ)の
費(ツイエ)と云べし故に如 ̄キ_レ此 ̄ノの土蔵は去卯年の大地震に
は悉く破壊(ハエ)して非常の為(タメ)には更に成難(ナリガタ)し地震後
の火災には悉く類焼せり因(ヨツ)て予が作法(サクハウ)は柱等
決して良材高価(リヤウザイカウカ)の品を用ひず節多(フシオヲ)の檜(ヒノキ)の悪木(アクボク)に
て四五六七角等の丸付?を少(スコ)しも鉋(カンナ)等をかけずに用
現代語訳
右の図は、母屋(おもや)の柱と庇(ひさし)の柱とに貫(ぬき)を差し通し、込み栓(こみせん)を打ち込んで、庇が分離しないようにしっかりと繋ぎ留めた図である。たとえ長さ十間・二十間の長屋建ての庇であっても、間口二間あるいは三間ごとに数か所このように繋いでおけば、いかなる激烈な大地震・大嵐・竜巻が来ても、破壊・崩墜(やぶれくつれ落ちること)の心配は決してないはずである。もっとも、庇にも筋交いを打つべき箇所があれば、工夫して切り込んで打ち付けるべきである。
○そもそも土蔵の建て方は、どこも同様に、六・七寸角の木目の良い大材を柱とし、内面は柱・貫ともに鉋(かんな)をかけ、壁は白土で仕上げることが世間の習わしである。しかしながら、これはただの見せかけの美しさ(虚美)に過ぎず、地震や火災をしのぐためには少しも役に立たない。無益な出費と言うべきである。それゆえ、このような土蔵は、去る卯年の大地震にはことごとく破壊して、非常時にはまったく役に立たず、地震後の火災にはことごとく類焼してしまった。そこで、私(著者)の作法(建て方の方法)は、柱などには決して良材・高価な品を用いず、節の多い檜(ひのき)の粗悪な木材で、四・五・六・七寸角などの丸みの残ったものを、少しも鉋などをかけずに用い……(次頁へ続く)