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コレクション: STAGE5

安政見聞録 中 - 翻刻

安政見聞録 中 - ページ 15

ページ: 15

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傍(かたはら)なる杉戸(すぎど)に唾(はきか)ける。柘榴(ざくろ)忽地(たちまち)火焔(くわえん)となつて杉(すぎ)戸|燃(もえ)んと なしけるを法性房(ほうしやうぼう)印(いん)を結(むす)び。これを鎮(しづ)めたりといふこの事|元亨(けんけう) 釈書(しやくしよ)に見えて。人のよく知る所。但(たゞし)信偽(しんぎ)は解(げ)しがたし。かゝれば名僧(めいそう) 天|雷(らい)を。祈(いの)ることなしといふべからず。然(しか)れどもこの事は。古人(こじん)も多(おほ)く論(ろん) 説(せつ)を立(たて)て。種〻(さま〴〵)にいひあへり。また人(ひと)〻の護(まも)りにより。火災(くわさい)あらずと いふことも。たゞ|一応(いちおう)の理(り)といふべし。然(さ)なくとも失火(しつくわ)ありては。家産(かさん)を失(うしな) ひ尤(けや)けきは。命を失(うしな)ふにも至(いた)れば。人として火(ひ)の元(もと)を。護(まも)らざる者なし といへども。時(とき)として大火あるは。実(じつ)に天の命数ある歟(か)。明(みん)の謝肇淛(しやてうせい) が上元(ぢやうげん)の燈(とう)の条(でう)に。火災(くわさい)は自(おのづから)命数(めいすう)あり。士女(しじょ)の遊観(いうくわん)は太平の象(しやう) 云云(しか〴〵)と。いひしをもて察(さつ)すべし    ○地震(ぢしん)の前後(ぜんご)地脈(ちみやく)狂(くる)ふの条(くだり) 《?:およ》そ大地(たいち)の気狂(きくる)ひ。陰(いん)気|上(かみ)にありて陽気を閉(とづ)れど《?:陽》気また下 に伏せず発|出(しゆつ)せんとするにおよびて。地おのづから脹(ふく)れあがること。養餅(かちひ)を 炙(あぶ)るごとくなりとは。既(すで)に前にも録(しる)したり。かく地中(ちゝう)動(うご)くにより。地脈(ちみやく) おのづから狂(くる)ふなり。因(よつ)て井の水|或(ある)ひは増。あるひは減(げん)じて常にかはる。 こゝに去年(こぞ)十月二日。大震(たいしん)の前なりしが。浅草(あさくさ)御|蔵(くら)前に福田屋と いふ。水茶屋のありけるが。駕(かご)に乗(の)りて来(く)る人あり。轎夫(おかせ)庭(には)を徘徊(はいくわい) なし。少(すこ)し凹(くぼ)みたる所(ところ)あるを。何心(なにごゝろ)なく杖(つゑ)にて突(つく)に。忽地(たちまち)清水(しみつ)滾〻(こん〳〵)と。 湧(わき)出て流(なが)れければ。主人(あるじ)これを見て大に駭(おどろ)き。立よりてその傍(かたへ)を穿(うがつ) に。いよ〳〵清|泉(せん)湧出(わきいづ)れば。人〻これを奇(き)なりとして。競(きそ)ひ見るもの市の 如し。主人は桶(をけ)の底(そこ)を抜(ぬ)き。是を覆(おほ)ひて井のごとくし。汲(くみ)とりて茶を煎(せん) ずるに。その味(あぢは)ひまた美なりこれを見聞く人|毎(ごと)に。たゞ|不測(ふしぎ)のことなり