翻刻
とそおほせける” さる間万こは” 事のほかにはらをた
て” いかにや〳〵きこしめせ” 仏をねかふ人はみな” た
う【道】とちゑとしひしん【慈悲心】一ツかけてもなりかたし”
たうといつは【注①】きやうたい【行体 注②】” ちゑといつはさとりの
心” しひ【慈悲】といつは一さいの” しゆしやう【衆生】をふかくあはれ
みて” 人の心にしたかへり” たい一しひのかけては仏と
さらになりかたし” しよせん物を申せはこそ” ことはも
おほくつくれ” 今は物を申まし” かくてこゝにひ
れふし” 思ひしにとなつて” 此世のちきりこそあさ
くとも” ちこく【地獄】かき【餓鬼】ちくしやう【畜生】しゆら【修羅 注③】にんてん【人天 注④】に” むま【生】
れかはりし【死】にかはり” 六たう【注⑤】四しやう【注⑥】のそのうちを”
くるり〳〵とおいめくつて” うさもつらさものちの世
【注① 「言っぱ」=「言うは」の転。】
【注② 修行のかたち、方法。】
【注③ 阿修羅の略。常に帝釈天と戦っている悪神。須弥山の下の海底に住むという。】
【注④ にんでん=人間界の人間と天上界の天人。】
【注⑤ 六道=すべての衆生が生前の業因によって生死を繰り返す六つの迷いの世界。すなはち、地獄、餓鬼、畜生、阿修羅、人間、天上をいう。】
【注⑥ 四生=生物をその生れ方から四種に分類したもの。胎生、卵生、湿生、化生の四種の生まれ方。】