翻刻
人面(じんめん)おなじからざること。猶(なお)人心(しんしん)の同(おなじ)からざるが如(ごと)く。肢体(からだ)に
小(すこ)しき異(こと)なるあるは。賢愚(けんぐ)斉(ひとし)からざるに似(に)たり是(これ)を以(もつ)て
これを観(み)れば。斉(せい)の東郭(たうかく)信義(しんぎ)の瘤(こぶ)あり蜀(しよく)の魏延(ぎゑん)に企叛(むほん)
の骨(ほね)あり胴長(どうなが)。出臀(でつしり)。肥満娘(ふとつちやう)。家鴨(あひる)の横飛(よことび)一寸矮児(いつすんぼうし)。人(ひと)の姿(ふり)
みて吾風流(わがふり)の。今茲(ことし)もなほらぬ筆癖(ふでくせ)は。相者(さうしや)でもなく医者(いしや)
でもなくしらふことなしの胴人形(とうにんぎやう)。おどけ作(つくつ)て魂(たましい)の。入(い)らざるお世話(せわ)
に教訓(きやうくん)も首尾(しゆび)よくまいればお慰(なぐさみ)。いよ〳〵著述(ちよじゆつ)にかゝりませふ《割書:テン〳〳〵〵|カラ〳〳〵〵》
《割書:スツテンテン| 》
細工人
庚申 はつ春 曲亭馬琴製 【馬琴の印】