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【右丁】
〇神田明神の御 告(ツケ)ありしといふ事専ら人口に鱠(クワイ)【鱠=膾 どちらも「なます」の意】炙(シヤ)す地震火事
の時神田はやかぬ〳〵といふて通りしものあり其余【餘】色々の噂あれ
と後日にしるし加へし
〇薬研堀埋立地住外科名倉弥次兵衛か許へ療治を乞に来る
怪我人始の程は一日に四百人或は五百人門前釣台【臺】【つりだい=物品を載せてかついで運ぶ道具】と駕籠との
市をなせり其余【餘】外科の家々功【「巧」とあるところ】拙を撰ます皆療治を受るもの日
毎に多かりし
加藤岩十郎殿筆記中
〇赤城下に住る常盤津続【續】瀬太夫といふ浄瑠璃語同し辺成宮
太夫といへる者と倶に客に伴れて花街に趣けりしかるに其席
【左丁】
につらなる事何となくたへかたけれは強(アナガチ)に席を辞して家に帰
らんとして大門を出る頃俄に揺り出しけれは急て家に帰りて
無事也其席にありし人々は皆潰れて死しけるとそ《割書:是は久喜万|字屋の息子》
《割書:勘当のゆりし喜びにとて今夜|酒宴を催しける時の事なりともいふ》
〇牛込築土酒店三河屋某か娘弐人あり二日の夜見世の方にて召
仕の者にや将棋【「棊」は「棋」に同じ】をさして居るを見てありしか最早亥の刻にも
なりしかは将棋を見すして疾くいねよと母なるものに叱られ
て其侭臥戸に入けるか程なく地震し土蔵鉢巻【土蔵の軒下で横に一段厚く細長く土を塗ったところ】といふ物落て屋
上を破り二人か上へ落かゝりて即死す
〇市ヶ谷の定火消屋敷同心三津間氏なる者《割書:十八|九才》地震の日火見の当番