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【右丁】
してかしこに在りしか傍輩【仲間】あかし跡よりとり来りて先にとりし
ものに向ひて云我は孤独【獨】の身也死すとも心残る事なし汝は妻あり
子あり必彼に心引るへしたゝちに下りて安否を問ふへしと云け
れは其厚意を謝してこれに替れりそれより後夜明迄数度大
小の地震ありけるか臆する事なく次第に所々より出火ありしを
其方角違ふ事なく太鼓を打当たりよつて其信義と勇気を感
して褒賞ありしとそ
岡村庄兵衛殿話【先に左側に「加藤岩十郎殿記事中」と記載せるを線引きして消している】
〇小川町定火消屋敷《割書:当時は火|消御免》同心某は潰家の下に成たり息子二人材木
をかゝけて助けんとして骨折けるか屋敷の内より火出て次第に近づき
【左丁】
けん弟が鬢髪に燃付しかば父か云今は我運命も尽果たり強ちに我
を援んとして汝等か身を誤らんは無益の事也必しも父を捨てとく落
のびよといふ兄弟いかんともする事【「叓」は「事」の古字】ならす途方に暮て彳【たたずみ】しを促すに
よりなく〳〵火炎を避て此あたりたちもとをりし内次第に焼募て
はかなくなりぬと此組屋敷与力天野丈右衛門夫婦子供即死し老
母一人残る都而【すべて】此組屋敷にて死亡凡五十人に余【餘】れりといふ
田上定五郎殿話
〇福山侯にみやつかへしける少女の内町人某か娘二日の昼兼て
好る所の振袖の衣類を調へその親自身に携へ参りて与へけれ
は彼喜ひておさめつ扨其夜の地震にあひて逃出る事ならす