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【右丁】
み居たりしに地震の時家内の者皆逃出し二階の三人は酩酊の侭
前後を知らす程なく家潰れしかは助てくれよといふ声をきゝて近隣
の者打寄り漸二人をは助け出しけるか壱人は死しけるとそ
深川元儁子話
〇深川常盤町に貨物両替をなりはひとせる大黒屋某近き頃より蕃昌
して呉服類の店をしつらへ十月二日見世開をなし代物【商品】多く仕込たり
しか此夜震災の殃【わざわい】にかゝりて家蔵并に商売【賣】の品物まて残らす焼失
たり
〇杉田成郷といへる人山伏井戸に栖り蔵板【=蔵版=書物の版木や紙型を所蔵してること。またそれで刷った本。】の書類を售【あきな】ひて世を送
る人なりしか地震の少し前下谷へ移り板木家財残らす焼て一物
【左丁】
も残る所なしと
〇馬喰町旅舎何某か家に鹿島の御師某泊り居たり時地震ありしか彼
中風といふ病にて歩行なりかたし家内皆走り出けれとも止事なく
て布団の上に坐したりしか頓て揺止て恙なしいかゝいひふらしけむ
さすかに鹿島の御師なれは彼神の守らせ給ふて事なかりしといふ
噂一般になりて頻に神符を乞しかは「ゆるくともよもやぬけしの
要石云々の哥を書て与へしかは求る人次第に増りけるとそしかるにこ
れにつかはるゝ手代某此夜花街に趣きて酒に酔地震の時潰家にあ
りて如何してか溝の中へまろひ落幸にして四肢を全ふして帰りし
かは是を神の守らせ給ふ所とて弥【いよいよ】信を増けるとそ