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【右丁】
かへるさ【帰り道】上野の山を通て清水のあたりなる茶店にやすらひ紅葉を看
て
極楽に似たる上野のもみち見は右も左も/くわう(香泉)【「くわう」の左にも「黄泉」の記載あり】せんの客
かく口すさみけるか十月二日の地震に家潰れ三人ともにあへなく
亡ひけるとか 此談虚実イカヾアラム
浅草奥山料理茶や 新昇亭五郎兵衛話
〇二日の夜は所々に婚姻ありけるよしその内浅草田町なる武蔵野
といへる貨食舗の娘 は容貌端正の聞へあり山王神田祭礼の時
邌子【れいし=練り行く子】にも出て人にも知られたりしか檜物町なる江戸第一の料理や
島村某《割書:即席の調理にあらす兼日より|約し置て調ふ家なり》の息子ゟ所望し衣粧調度の料に
【左丁】
とて百金を贈り婚儀を取結ひこの夜呼迎へて漸盃の濟ける時俄
に揺出しけるまゝ合家【ごうか=家中】大路へ逃退ける男は麻上下女はかゐとり【打掛小袖】の侭にて
野宿しけるか幸にこの家は潰れず田町なる里方の家は娘の駕を出しやり
て後雑煮餅をふるまはんとて調理なかはなりし頃揺出しけれは居合
せし親戚知己一家の男女も皆大路へ退出つゝ怪我もなかりしかと家は頓【とみ】
に潰たり竃のもちにうつふしに成て助りしもの一人あり右の五郎兵衛も新
門の辰五郎《割書:奥山に茶店をひらけり人の|知りたる侠客なり》と倶に此席に排り居て幸にのかれ出
しか田町の通り一円【圓】に潰大路は潰家に塞り其上火起りしかは家の下にな
りて男女の泣さけふを聞助たくは思ひ【「へ」とあるところ】とも其身すらあゆむ事なりかた
かりけれは辛ふして潰家の上を這ふておのが家へ帰り着ぬるよしなり