翻刻
より一円の鳥雲《割書:大サ九尺余り|に見し由》虚空を渡りしか福山侯御下屋鋪の表
門に当ると見えしかたゝちに其門倒れたり玄雲船頭か頭上を過り
駒形より浅草寺のあたりと思しき方へ飛去りたりとそ《割書:此船頭家に|帰りしにはや》
《割書:家潰れ二人の子を|失ひたりし由也》
又柳島の鰻かきも天神橋の畔にて此鳥雲の鳴渡りしを看
たり懼しと覚へて小舟の中へうつぶしに成し時其舟覆りしに
およぎて陸へ上りし時はや家々潰たりとそ
此日旦より細雨あり程なく止終日曇れり夜は村雲ありて微風
なり《割書:亥子の間より|風ふく》故に数箇所より火出たれと飛火は尠し暁方に
至り少しく風出たり大川は甚静なれと汐ハ常よりも早かりし
由也《割書:今年六月より七月に至り炎旱旬を渋【渉?】り透【邌?】庶雨を思ふ事頻なりしか|八月干いたりては屡雨ふり気候別にかはりし事を覚えす》
〇二日夜亥の一点《割書:或二点|とも》大地俄に震出し家は犇々と鳴響き逆浪
に船のたゞよふ如く即時に家屋倉廩(カヲクサウリン)を覆し間もなく頽(クヅレ)たる
家々より火起りて同時に焼上リたり号哭(ガウコク)の声閭閻にみちて恐し
ともいはん方なし其内最初にに燃立たるは吉原町なるへし
《割書:吉原町の事|未に誌す》此夜民家町家ともに自己の家にかゝつらひて火消
の人部馳集る事なく水を灌(ソヽキ)火を滅(ケ)すへきもの更にこれ
なし
〇御城内石垣多門等所々崩御番所傾大手御門西御丸二重御櫓損
し桔梗御門等大破両御丸御殿は都て無別条外廻石垣見付壁等