翻刻
【右丁】
《題:広益秘事大全》【四角囲み】
【赤角印 帝國圖書館】 【赤丸印 帝圖 昭和十五・一一・二八・購入】
予(よ)諸国(しよこく)を遊歴(ゆうれき)して見聞(けんもん)するに海浜(かいひん)に属(つき)たる所(ところ)は魚(ぎよ)
塩(えん)の利(り)廻船(くわいせん)の交易(かうえき)などを業(げふ)として万(よろづ)便利(べんり)なる故(ゆゑ)に自(おのづ)
から富饒(ふによう)にて貧民(ひんみん)といへども大概(おほかた)衣食(いしよく)に乏(とぼ)しからず
此(これ)に反(はん)して山村(さんそん)の僻地(へきち)には産出(なりいづ)る物(もの)も少(すくな)く且(かつ)運送(うんそう)の便(たより)
わろきまゝに何事(なにごと)も困乏(こんぼう)にして甚(はなはだ)しきは飢寒(きかん)に堪(たへ)ざる類(たぐひ)
多(おほ)しそのうへ人家(じんか)間遠(まどほ)にて比隣(ひりん)相救(あひすく)ふべき由(よし)もなき所(ところ)
【左丁】
【上余白印 特1 206】 【赤角印 白井光】
などには古来(むかし)より世間(せけん)に流行(りうかう)せる事などをも曽(かつ)て
知(しら)ず質朴愚昧(しつぼくぐまい)にして憐(あはれ)むべき事(こと)どもあり海島(かいとう)僻遠(へきえん)
の地(ち)も亦(また)これに准(なぞら)ふべしさる所々(ところ〴〵)にては偶(たま〳〵)大益(たいえき)ある物あれども
製(せい)すべき法(ほう)を知(しら)ず食(くら)ふべき物も調理(てうり)の術(じゆつ)を知(しら)ずして徒(いたづら)に
過(すぐ)る事/多(おほ)く又(また)医師(いし)なども拙陋(せつろう)なる上に甚(はなはだ)稀(まれ)にて急患(きふくわん)を
救(すく)ふに便(たより)なく或(あるひ)は養生(やうじやう)の術(じゆつ)踈略(そりやく)にて非命(ひめい)に死(し)する類(たぐひ)も有(あり)
またさる愚蒙(ぐもう)を誑(たぶら)かして奸僧(かんそう)妖巫(ようぶ)の徒(と)漫(みだり)に奇怪(きくわい)を唱(とな)へ
て物(もの)を貧(むさぼ)る習俗(ならはし)などもあり惣(すべ)て慨嘆(がいたん)すべき光景(ありさま)なるに
つきていかでさるべき事どもを教(をし)へて日用(にちよう)の急(きふ)を救(すく)ふ事(こと)も
がなと思(おも)ふ折節(おりふし)墨香居(ぼくかうきよ)の主人(あるじ)云々(しか〴〵)の雑書(ざつしよ)を編(あみ)て刊行(かんかう)
せんと相議(あひはか)る其趣(そのおもむき)予(よ)が予考(あらかしめかんがふ)る所に同(おな)じければ門人(もんじん)等(ら)に筆(ふで)を把(とら)