東京学芸大学「学びと遊びの歴史」を翻刻!

コレクション: 学校教材発掘プロジェクト 1

伊勢物語 - 翻刻

伊勢物語 - ページ 32

ページ: 32

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【右丁】 女   岩まより生るみるめしつれなくはしほひ塩(しほ)みちかひもかひも有なん 又男   なみだにぞぬれつゝしほる世の人のつらき心はそてのしづくか よにあふことかたき女になん 七十六【丸で囲む】むかし。二条のきさきの。また春宮(とうぐう)のみやすん所と申ける時。 うぢ神にまふで給けるに。このゑつかさにさふらひけるおきな。人 々のろく給わるついでに。御車より給はりて。よみて奉りける 《割書:古今をゝはら》大原やをしほの山もけふこそは神代(かみよ)のことも思ひいつらめ とて。心にもかなしとや思ひけん。いかゞおもひけんしらすかし 七十七【丸で囲む】むかし。田村(たむら)のみかどゝ申みかどおわしましけり。其時の女御。た かきこと申。みまぞかり【注①】けり。それうせ給ひてあんしやうじにて。みわざ【注②】 しけり人々さゝけ物奉りけり。奉りあつめたる物。ちさゝけ【注③】ばかり有。 そこはく【注④】のさゝげ物を。木の枝(えた)につけてたうのまへに立たれは山もさ らにたうのまへに。うこき出たるやうになんみへける。それを右大将(うたいしやう)にいま 【注① みまそがり=いらっしゃる】 【注② 法要、仏事を尊んでいう語。】 【注③ 千捧げ=平安時代、捧げものを数えるのに用いる。物の枝につけた一組の捧げものをひとささげという。】 【注④ そこばく=たくさん】 【左丁】 そかり【注⑤】ける。ふぢはらのつね行と申。いまそかりて。かうのをはるほどに。 哥よむ人々をめしあつめて。けふのみわざをだいにて。春の心ばへある哥 奉らせ給ふ。右の馬(むま)のかみ成けるおきな。目はたがひ【注⑥】なからよみける   山のみなうつりてけふにあふ事は春のわかれをとふと成べし と。よみたりけるを。今みればよくもあらざりけり。そのかみ【注⑦】は是や増(まさ)りけん哀(あはれ)がりけり 七十八【丸で囲む】むかし。たかきこと申女”御。をわしましけり。うせ給ひて七々日の みわざ。安祥寺(あんじやうし)にてしけり。右大将(うだいしやう)ふぢはらのつねゆきといふ人いま そが【濁点の打ち間違い】りけり。其みわざにまふで給ひて。かへさに【注⑧】山しなのぜんじのみこ おわします。其山しなのみやに。たきをとし水はせらせなどして。 をもしろくつくられたるに。まうで給ひて。としごろよそにはつかふ まつれど。ちかくはいまだつかふまつらず。こよひはこゝにさふらはんと 申給。みこよろこひ給ふて。夜のをましのまうけさせ給ふ。さるに かの大将。出てたばかり【注⑨】給ふやう。みやつかへのはじめに。たゞなをやは有へ 【注⑤ いまそがり=いますがり=みまそがり=みますがり=「ある」、「いる」、「おる」の尊敬語。いらっしゃる。】 【注⑥ 見間違い】 【注⑦ その当座。】 【注⑧ 帰りがけに】 【注⑨ 相談する。】