翻刻
【右丁】
き。三条のおほみゆきせし時。きの国ちさとのはまに有ける。いと
おもしろきいし奉れりき。おほみゆきのゝち奉れりしかば。ある人のみ
ざうし【御曹司】のまへのみぞ【溝】にすへたりしを。しま【注①】このみたまふ君なり。此
石を奉らんとの給ひて。みずいしん【御随身】とねり【舎人】して。取につかはす。いく
ばくもなくてもてきぬ。此石きゝしよりはみるはまされり。是を
たゞに奉らば。すゞろ【注②】成へじ【ママ】とて。人々に哥よませ給ふ。右の馬のかみ成ける
人をなん。あをきこけをきざみて。まきゑ【蒔絵】の方に。此哥を付て奉りける
あかねとも岩(いわ)にぞかふるいろみへぬ心をみせんよしのなければ
となんよめりける
七十九【丸で囲む】むかし。うぢの中にみこ生れ給へりけり。御うぶ屋に人々うた
よみけり。御おほぢがたなりける。おきなのよめる
わが門にちひろ有かげをうへつれば夏(なつ)ふゆたれかかくれざるべき
これはさだかずのみこ。ときの人。中将の子となんいひけるあにの
【注① 泉水のある庭。】
【注② 何ということもなくつまらない。】
【左丁 挿絵】