翻刻
伊勢物かたりよみくせ
▲初段ことゝ。もや思ひけんとよみきるべしむかし〝人とにごるへし▲二段そをふると読(よむ)へし
▲三段たゞ人たゞうとゝ読べしよみておよんでと読べし▲九段す行者と読へし御おゝん
とよむべししもつふさしもつうさと読べし▲十一段あなりあんなりとはねて読
べし▲十六段あてはか一説にばかともよめどもはかとすみたるよしよろこび
にたへてゝの字にごるへし▲廿一段ありしよりけに勝の字也けとすみて読べし▲廿三段つゝ
ゐづの井つゝと濁(にごる)へしけさうしてのしの字 濁(にごる)へしけこのうつはものけごとにごるべし▲廿四段あけて
と読べしわかせしかこと両説有かことゝにごるはあしきと也かことゝ読べし▼廿八段あふこ
かたみとにこるべし▲卅段ならんさかみんさがととにごるべし悪の字なり▲卅四段いへばえにはえにとよむへし
▲卅九段御はふりおゝんはうりと読べし▲四十げしうと読べしさかしらするさがと読説あ
しゝたゞさかしらを云人有也讒の字なり猶おもひこそいゝしか此かのじすむべしいひしかと
よみきりていとかくしもと読べし▲四十三ほとゝぎすながなくとかの字にこるべし▲四十四
段いゑどうじとにこるへし▲四十五なつのひくらしなかむれば日くらしとすむべしにごるは
あしゝ▲四十六あめれあんめれとはねてよむべし
【左丁】
㊀むかし男。うゐかうふりして。ならの京。かすかの里にしるよし
して。かりにいにけり。其さとに。いとなまめいたる女。はらからすみ
けり。此男かいま見てけりおもほえす。古里(ふるさと)に。いとはしたなくて
有ければ。こゝちまどひにけり。男のきたりける。かりきぬのすそを
切(きり)て。哥(うた)を書(かき)てやる。其男。しのぶずりの。かりぎぬをなん。きたりける
《割書:新古今》かすがのゝ若紫(わかむらさき)のすりころもしのぶのみだれかぎりしられず
と。なんおひ付て。いひやりける。ついでおもしろきことゞもや。おもひけん
《割書:古今》みちのくのしのぶもぢずりたれゆへにみだれそめにしわれならなくに
といふ哥の心ばへなり。むかし人は。かくいちはやきみやびをな
んしける
㊁むかし。男。有けり。ならの京ははなれ。此京は。人の家まださだ
まらざりける時に。西の京に女有けり。其女。世人にはまされりける。
其人。かたちよりは。心なんまさりたりける。ひとりのみもあらざりけらし。
それをかのまめ男。うち物かたらひて。かへりきて。いかゞおもひけん