翻刻
【右丁】
世をうみのあまとし人をみるからにめくばせよともたのまるゝかな
これは。さいくうの物見給ひける。くるまにかくきこへたりければ。みさ
して【注①】かへりたまひにけりとなん
百五【丸で囲む】むかし男。かくてはしぬべしといひやりたりければ。女
しらつゆはけ【消】なばけ【消】なゝんきへずとて玉にぬくべき人もあらじを
といへりければいとなめし【注②】と思ひけれど心ざしはいやまさりけり
百六【丸で囲む】昔男。みこたちのせうえう【逍遥】し給ふ所に。詣(もふて)てたつた川の辺(ほとり)にて
《割書:古今》ちわ【ママ」】やふる神代(かみよ)もきかずたつた川からくれなゐに水くゞるとは
百七【丸で囲む】昔。あてなる男有けり。其男のもとなりける人を。内記(ないき)にあり
ける。ふじはらのとしゆきといふ人よばひけり。されどまたわかければ
。文もをさ〳〵しからす。詞(ことは)もいひしらす。いはんや哥はよまさりければ。かの
あるし成人案を書(かき)て。かゝせやりけり。めてまどひける。扨男のよめる
《割書:古今》つれ〳〵のながめにまさる涙(なみた)川 袖(そて)のみひちてあふよしもなし
【注① 見物途中で。】
【注② 無礼である。】
【左丁 挿絵】