翻刻
【右丁】
おはりのあわひの。うみづらを行に。なみのいとしろくたつを見て
《割書:後撰》いとゞしく過行(すきゆく)かたの恋しきにうら山しくもかへるなみかな
となんよめりける
㊇むかし。おとこ有けり。京やすみうかりけん。あつまのかたに行て。
すみ所もとむとて。友(とも)とする人。ひとりふたりして行けり。し
なのゝくに。あさまのだけにけふりのたつをみて
《割書:新古今》しなのなるあさまのだけに立けふりおちこち人のみやはとがめぬ
㊈昔。男有けり。其男。身をようなき物に思ひなして。京にはあら
じ。あつまのかたに。すむべき国もとめにとて行けり。もとより友と
する人。ひとりふたりしていきけり。道しれる人もなくて。まとひいき
けり。三かはの国。八はしといふ所にいたりぬ。そこを八橋といひけるは。水行
川のくもでなれば。橋を八わたせるによりてなん。八橋といひける。其さはの
ほとりの。木のかげにおりゐてかれいひくいけり。其 沢(さは)に。かきつばたいとおも
【左丁 挿絵】