翻刻
手の甲に青筋を入墨仕候其の角(つの)は自然と生候物にては無之
鯨の牙にて筆の軸の太さに削り長さ二三寸掛はづし相成候様に拵候
物に御座候常にははづし居申候男子は被髪にて候男女共に
鳥の毛を着し穴居に御座候夫ゟヤムサツカと申地え罷越候
在留中乗組の内六人死亡仕候病体日本にては見及不申チンガと
申煩に御座候由《割書:和蘭(をらん)だにてシケウルホイクと云|即青眼牙疳なり》此地にて魯西亜の加比丹
《割書:官名なり|紅毛にもあり》テモへオシホイチと申者に出合オホツカと申地え連れ渡り
呉れ夫よりイルカウツカと申地に四年滞留仕候此所は寒き殊に甚
敷冬の間は外え出仕候には裘(かわころも)を着し狐の皮にて面を包目斗出し
歩行仕候もしや引合の透間より耳鼻抔あらわし候得は沍(いて)にて
石のことく堅く相成家に入暖気を得候えは忽ち解け落申候頬先抔は
ゑぐりたる如く抜け落申候右之節は乳酪(ボウトル)に丁子肉桂の末を加え候を
塗候えは癒申候厳敷寒きを受候得は手足も抜け落申候既に同舟
の者にて庄蔵と申者右之証相悩み候彼の国の医師大なる釣りかけの
鋸を以て足を引切り焼酎(せうちう)浸し候木綿にて切口を包み療治仕候煎
薬は硝子に入与え申候勿論療治仕候前にも飲せ申候食物元手は
一日に銅銭十文宛相渡し候右の銭にて牛肉小麦抔を調給申候拾文
にて一日の雑費十分に御座候乍去右之銭後々は相渡し不申不自
由に候はゝ元手を貸呉候上地代年貢等も取申間敷間商人に相成
候/得(と□)追々取立可申侭奉公仕候とも致彼の地の者に罷成候様子
ひたすら相進候得共何分日本に帰国仕度願に御座候間一向に
承引不仕兎角露命を緊彼是え帰国の事相願候得共一円
埒明不申候えは中にて支候て女帝え御聞に達□不申故の由を承り
出し候につき私壱人都え登り帝へ通/訴(そ)仕候砌り旅中はキリロと申