翻刻
腰に提候は女帝より賜り候時計に御座候襟に掛候はメンタアリ
と申物にて御座候片面は開祖伯多禄帝乗馬の像片面は
当今の女帝エカテリナの肖像に御座候是も女帝ゟ賜り
候此メンタアリを掛け候ものは魯西亜国中何方え参り候ても麁略に
取扱不仕候惣て私共義制外に仕御座候得は何方え参り候ても
咎候旨無御座候食事の節抔御老中方とも思敷(をぼしき)宅え参り
一ツ所にて給候事抔も度々御座候
此問答終て 上にも暫く被遊 入御漂民にも昼食を被下置
給ふ扨支度相済候て御白砂え被召出此度外套を換え
幸太夫は油縁色(あいびろうと)の多羅呢(らしや)磯吉は老虎色(かばいろ)の多羅呢(らしや)なり
問
其方共魯西亜にて救命の恩其外の厚情/仇(あだ)には存間敷事に
有之候如何に存罷在候哉大切に存居可申事に候
答
恩義に於て聊も仇には存不申候乍去大切に存候程の義は無御座候
問
左程に恩義も有之候処何故強て願を立日本えは相戻候哉
答
乍恐私儀本国に老母妻子共御座候得は恩愛の相情忘れかたく
其上食物等不自由にて難義仕候夫のみならす言語明白に通し
兼朝夕心に任せざるがちに御座候に付身命擲一向帰国仕度
段相願候事に御座候
問
言語既に覚え候は不非哉