翻刻
【右頁】
いふ名医彼牛痘(めいいかのうしのほうそう)の膿漿(うみしる)を採(と)り人に種(う)へ伝(つた)ふる事(こと)を発明(はつめい)し初(はじめ)て
是を多くの人に種(う)へ試(こゝろ)みけるが果(はた)して其/種(うへ)し処(ところ)より真痘(まことのほうそう)を発(はつ)して
矢張(やはり)十二日の経過(はこび)を正(たゞ)しく終(おわ)りて其多(そのおふ)くの人も亦再(またふたゝ)び痘厄(ほうそう)を患(うれ)へざる事(こと)
妙(みよう)なるを以ての故(ゆへ)に倍々是(いよ〳〵これ)を世(よ)に公(おふやけ)にせり殊(こと)に輓近(ちかいころ)に在(あつ)ては天(あか)が下(した)に此法(このわう)を感(かん)
賞(しやう)せざる国(くに)とてはなきにいたれり是(こゝ)に於(おい)て応涅児氏(イヱンネルうじ)の功績四海(いさおししかい)にみちて永(ゑい)
世不朽(せいくちざる)の遺沢(よきかたみ)となりし事豈大(ことあにおふ)ひならずや万国(ばんこく)にて皆神(みなかみ)と崇祭(あがめまつ)るも亦宜(またんべ)ならずや
仮痘弁(かとうべん かりばうそうのわけ)《割書:此痘に限り|中央窅凹せず》
種痘(うへぼうそう)を行(おこの)ふて真痘(まことのほうそう)にあらざる者発(ものはつ)する事(こと)あり是を仮痘(かとう)といふ也必再(なりかならすふた)び
種(うへ)るべし又/種(うへ)て後(のち)/第七日(なぬか)/第十三日(ぢうさんにちめ)を以(もつ)て■定肝要(みわけかんにやう)の日(ひ)とす/然(しか)るに
粗略(そりやく)の医師(いし)等閑(なほざり)にして其期(そのひ)を怠(おこた)る故(ゆへ)/再(ふたた)び真痘を/患(うりよ)ふる事(こと)
【左丁】
なきといひ/難(がた)し是/医師(いし)の/誤(あやまり)なり又/医師(いし)の諭しを用(もち)ひずして其(その)
期(ひ)に携来(つれきた)らざるは是(こ)れ其(そ)の人の誤(あやまり)也近年此事以/多(おふ)し共(とも)に/必慎(かならずつゝし)むべし
偽痘弁(むとうべん、うそぼうそうのわけ)《割書:又/類痘仮痘(るいとうかとう)の名もあれど|通じ易(やす)きため偽痘(ぎとう)とおく》
偽痘(ぎとう)といふて真痘(まことのほうそう)にあらざる者九種(ものくしゆ)あり即(すなわち)水痘(すいとう)石痘(せきとう)泡痘(ほうそう)球痘(きうとう)永痘(しどう)疣(ゆう)
痘(とう)天■痘(てせんとう)海綿痘(かいめんとう)水晶痘(すいしやうとう)是也最(それなりもつと)も其形状(そのかたち)は真痘(まことのほうそう)の如(ごと)く正(たゝ)しからずして
自(おのづ)から異(こと)なり又/偶真痘(たま〳〵まことのほうそう)に肖(に)たるものあるとも其証徴悉(そのめあてこと〳〵)く順調(そろわ)ざる
が故に一見(いつけん)して能■別易(よくみわけやす)しといへとも尚茲(なをこゝ)に其(その)一二の確徴(めあて)を示(しめ)すべしこと
凡(およ)そ真痘(まことのほうそう)の発(はつ)するや今日は面部(かを)明日は手(て)明後日は足(あし)と順序正(はこびたゝ)しく発(はつ)
する者なれど偽痘(ぎとう)に於いて手より発(はつ)するあり足(あし)より発(はつ)するあり面部反(かをかへつ)て
少(すく)なきあり一処(ひとゝころ)を局(かぎりて)して多(おふ)きあり全軀同一時(そうみおなじとき)に発(はつ)するあり結痂(かわ)うすく