翻刻!江戸の医療と養生

コレクション: 模範解答付きコレクション1

昔話稲妻表紙 - 翻刻

昔話稲妻表紙 - ページ 111

ページ: 111

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時(とき)にかの男(をとこ)棒(ぼう)をからりとなげすてゝ平伏(へいふく)し。土(つち)に額(ひたい)をすりつけて恭く いひけるは。某(それがし)察(さつ)し奉るに。君(きみ)は佐々木(さゝき)の若殿(わかとの)桂之助(かつらのすけ)国知公(くにともこう)にうたがひなし 実をおんあかし玉はれかしと相(あひ)のぶる虚無僧(こむそう)頭(かうべ)を打(うち)ふり。こは思ひかけざる 事(こと)を聞(きく)ものかな。某(それがし)は一所不住(いつしよふちう)の修行者(しゆぎやうじや)にて。もとより卑賤(ひせん)の者(もの)なり かならずしも人たがへし玉ふなといふ。かの者(もの)かさねていはく。世(よ)をしのぶおん身 なれば。容易(ようい)に実(じつ)をあかし玉はぬも理(ことはり)なり。先(まつ)やつがれが身(み)のうへを前(さき)に 告(つげ)きこえ奉らん。そもやつがれはおん家士(いへのこ)名護(なこ)屋山三郎が僕(しもべ)鹿蔵(しかぞう) と申す者(もの)の弟(をとゝ)猿(さる)二郎と申す者(もの)にて候もとは兄(あに)とゝもに山(さん)三郎につかへ はべりしが。やつかれはゆゑありて仕(つか)へを辞(じ)し。古郷(こきやう)河内(かはち)の国(くに)にかへりてくらせし うちなごや三郎左衛門は不破(ふは)伴(はん)左衛門が為(ため)に闇打(やみうち)にあひ山三郎は平(へ) 郡(ぐり)の館(やかた)の騒動(そうどう)につきて。やつがれが住家(すみか)におち来(きた)り。一ツには君(きみ)のおんゆく へをたづねて安否(あんぴ)をとひ奉り。二ツには伴(ばん)左衛門をたづね出(いだ)して父(ちゝ)の仇(あた)を むくはんと。我(われ)〳〵に命(めい)じて所々(しよ〳〵)方々(ほう〴〵)をたづねしめ。このごろは山(さん)三郎 鹿蔵(しかぞう)を具(ぐ)し て西国(さいこく)に旅立(たびだち)はべりぬ。やつがれは露(つゆ)の五郎兵衛と名(な)を更(かへ)。辻談義(つぢだんぎ)にことよせて。 京(きやう)大坂(おほさか)は申すにおよばず。所々(しよ〳〵)人立(ひとだち)おほき処(ところ)にいたりて。専(もつはら)尋(たづ)ねはべりぬ。しかるに 唯今(たゞいま)君(きみ)にめぐりあひ奉るは。我(われ)〳〵主従(しゆう〴〵)が一念(いちねん)とゞきし所(ところ)也。世(よ)にあるおん時(とき)ならば 某等(それがしら)がごとき賎(いやし)き身(み)は。おん姿(すがた)を拝(をが)み奉ることだもあたふまじきに。面前(まのあたり)拝(はい) 謁(ゑつ)つかまつる勿体(もつたい)なさよといひて。実心(じつしん)面(おもて)にあらはれければ。虚無僧(こむそう)打(うち)うな づき。さる誠心(せいしん)を聞(きく)うへは何(なに)をかつゝむべき。汝(なんぢ)が推量(すいりやう)にたがはず我(われ)は桂之助(かつらのすけ)也。 汝(なんぢ)が面(おもて)は見しらずといへども。山(さん)三郎がしもべに。鹿蔵(しかぞう)猿(さる)次郎とて両人(りやうにん)ありとは かねてより聞(きゝ)およびぬとのたまひければ。猿(さる)二郎こは冥加(みやうが)なるおん詞(ことば)。あり がたきまでにおぼへはんべり。不破(ふは)道犬(どうけん)が悪意(あくい)。奥方(おくがた)若君(わかぎみ)のおん身(み)のうへに