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目(め)相見(あいみ)て孕(はら)み。吐(はき)て子(こ)を生(うむ)といへり。夏子益(かしゑき)が奇疾方(きしつほう)に。蒼鶂(そうじ)の肉(にく)に
人血(じんけつ)を和(くわ)して。瘂(おし)を治(ぢ)する方(ほう)ありと。ある名医(めいい)に聞(きゝ)たる事(こと)あり。吃謇(ことどもり)
にも又 験(しるし)あるまじきにあらず。思ひかけずかゝる奇鳥(きちやう)を得(え)たるも。又 一奇(いつき)
事(じ)なれば。こゝろみにもちひ玉はずやといふにぞ。又平やがてかの鳥(とり)の肉(にく)をさき
とりて火(ひ)にあぶり。雲六(うんろく)が鮮血(せんけつ)をそゝぎて食(しよく)しけるに。頓(とみ)に咽(のんど)すゞやかになり。
生(うま)れつきたる吃謇(ことどもり)。忽(たちまち)常(つね)の人(ひと)のものいふごとくになりて。これもまた天(てん)の
与(あた)へならめといふこはざまも。いとあきらかなれば。小枝(さえだ)於竜(おりう)等(ら)こは不思議(ふしぎ)〳〵
といひて歓(よろこ)びあひぬ。誠(まこと)に奇異(きい)の事(こと)なりけり。かゝる折(おり)しも外(と)の方(かた)に。人(ひと)
の足音(あしおと)ひゞきければ。又平 小枝(さえだ)於竜(おりう)に目(め)くはしして。柱(かつら)之助を一間(ひとま)に
かくし。雲六(うんろく)が屍(しかばね)を蒲団(ふとん)にくるみて床(ゆか)の下(した)に押入(おしいれ)。血(ち)しほをぬぐふひま
もなく。見(み)せ物芝居(ものしばゐ)の主(あるじ)。楓(かへで)を伴(ともな)ひこゝぞ〳〵といひつゝ裏(うち)にいり。
なむ右衛門にむかひていひけるは。おん身(み)今日(けふ)しも此(この)宿(しゆく)をよぎり玉ひしを。
僕(しもべ)が見つけて告(つげ)しゆゑ。楓(かへで)をあはせ申さんため。旅宿(りよしゆく)をたづね参(まゐり)しと
いへば。楓(かへで)は父(ちゝ)にとりすがり。かはりたる此(この)お姿(すがた)。母(はゝ)うへも恙(つゝか)なくおはすかとて。あと
は涙(なみだ)に詞(ことば)なし。なむ右衛門は折(おり)よき幸(さいはひ)と歓(よろこ)び。たがひに何(なに)くれとかたり
あひて後(のち)。芝居主(しばゐぬし)にむかひ。ゆゑありて思ひかけず金(かね)とゝのひつるが。元金(もときん)
百両(ひやくりやう)を以(もつ)て。娘(むすめ)をもどしたまはらずやといへば。芝居主(しばゐぬし)すみやかにうけがひ。
楓(かへで)事 京(きやう)大坂(おほさか)は勿論(もちろん)。伊勢(いせ)尾張(おはり)のあたりまでゐてゆき。おほくの金(かね)を
徳(とく)つきたれば。即坐(そくざ)に百両(ひやくりやう)渡(わた)し玉はゞ。いかにもいとまをつかはすべし
といふにぞ。南無(なむ)右衛門ます〳〵へ歓(よろこ)び。かの金(かね)をとり出(いだ)して渡(わた)しければ。
芝居主(しばゐぬし)数(かづ)をあらためてとりおさめ。こは思ひよらざる楓(かへで)が仕合(しあは)せよとて。
金(かね)のうけ取(とり)。いとまのしるしを証文(しやうもん)にかきしるし。印信(おして)をすゑて