翻刻!江戸の医療と養生

コレクション: 模範解答付きコレクション1

昔話稲妻表紙 - 翻刻

昔話稲妻表紙 - ページ 147

ページ: 147

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御指南(ごしなん)にあづかり。かの奥儀(おうぎ)の書(しよ)をも拝見(はいけん)し度(たく)思ひしが。容易(ようい)に人(ひと)に あふ事(こと)をゆるし玉はざるよし。よき門路(つて)もがなと思ひ候に。今日(けふ)しも思ひかけず 相(あひ)まみへしは。誠(まことに)是(これ)師(し)とたのむべき時節(じせつ)到来(とうらい)。天(てん)のみちびき玉ふ処(ところ)なるべし。 向後(きやうこう)おん家(いへ)の奴僕(ぬぼく)ともおぼされて。薪水(しんすい)の業(わざ)を命(めい)ぜられ。兵術(へいじゆつ)の進退(しんたい) 軍伍(ぐんご)の勝敗(しやうはい)。御指南(ごしなん)たのみはべるなりと。低頭(ていとう)謙譲(けんじやう)して思ひ入たるけしき にぞ見へぬ。嘉門(かもん)感歎(かんたん)していはく。いまだ若輩(じやくはい)の身(み)を以(もつ)て。武道(ぶだう)の 心(こゝろ)がけ深(ふか)き殊勝(しゆしやう)さよ。いかでか疎意(そい)に存(ぞんず)べき。何(なに)にもあれ。且(まづ)某(それがし)が 宅(たく)におん越(こし)あれ。人(ひと)はいかにいひはやすかはしらざれども。某(それがし)が得(え)たる 業(わざ)は。林(はやし)に入(いり)て薪(たきゞ)をとり谷(たに)にくだりて水(みづ)をくむのみ。他(た)の事(こと)はさらに しらず。殊更(ことさら)武道(ぶだう)つれ〴〵草(ぐさ)とやらん書(しよ)を編(あみ)たるなどは。あともなき 虚言(そらごと)なり。軍師(ぐんし)なとゞはおこがましやといひて笑(わらひ)つゝ。三人 打連(うちつれ)て 谷(たに)かげのいほりにかへりぬ。かくて嘉門(かもん)家(いへ)に帰(かへ)り。老母(ろうぼ)に衣服(いふく)をきせかへ 濡衣(ぬれぎぬ)をあぶりかはかし。しゐ柴(しば)たきてあてなどし。さま〴〵にいたはる体(てい)を。かの 若者(わかもの)打(うち)見て。平日(へいじつ)の孝行(かう〳〵)を思ひやりぬ。嘉門(かもん)茶(ちや)を煮(に)て若者(わかもの)にすゝめ。 四方山(よもやま)のものがたりして。しばらく時(とき)をうしつけるに。折(おり)しも外(と)のかたにしはぶき の声(こゑ)しければ。人跡(じんせき)たえたる此(この)かくれ家(が)に。何者(なにもの)の来(き)つるやといぶかるうちに。 案内(あない)をこへば。ものゝひまよりうかゞひ見るに。これ一人(ひとり)の武士(ぶし)なり。簑笠(みのかさ) 打着(うちき)て。笠(かさ)の下(した)に覆面(ふくめん)したれば。面(おもて)はさだかならねども。遠国(ゑんごく)の旅人(りよにん)と おぼしき打扮(いでたち)なり。雪(ゆき)深(ふか)くふりうづみたる柴(しば)の戸(と)を。ほと〳〵と打(うち)たゝき。 誰(た)そたのみ申したし。こゝあけて玉はれと。いふ声(こゑ)聞(きゝ)て老母(ろうぼ)立出(たちいで)。何人(なにびと)ぞと 思ひしに。おん身(み)は頃日(このころ)両度(りやうど)まで来(きた)られし侍(さふらひ)よな。今日(けふし)も嘉門(かもん)家(いへ)に をらず。御用(こよう)の間(ま)にはあひ申すまじ。たとへおんたのみのすぢを。嘉門(かもん)に