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昔話(むかしがたり)稲妻(いなづま)表紙(べうし)巻之五下冊
江戸 山東京伝編
十九 刀剣(たうけん)の稲妻(いなづま)
その時(とき)鹿蔵(しかぞう)は。たゞちに小幡(こはた)の里(さと)にかへりて。山(さん)三郎にその日の子細(しさい)をつ
ぶさにかたり。葛城(かつらき)が誠心(せいしん)を告(つげ)。あまりにいとをしく存(ぞん)ずればせめて一度(ひとたび)は
かの地(ち)におん越(こし)ありて。御対面(ごたいめん)あるべしとすゝめければ。山(さん)三郎いひけるは。
五条坂(ごじやうざか)に葛城(かつらき)といふ名妓(めいぎ)ありとは。かねてほのかに聞(きゝ)つるが。その者(もの)高間(たかま)粂(くめ)
右衛門の娘(むすめ)岩橋(いははし)にてあらんとは。夢(ゆめ)にだも思はざりき。かの者は親(おや〳〵)の得心(とくしん)にて。
某(それがし)といひなづけの女なりといへども。今(いま)花街(くわがい)におちくだりながれの身と
なりたる女に対面(たいめん)せんは。武士(ぶし)の名(な)をけがすに似(に)たり。かれが志(こゝろざし)は不便(ふびん)なり
といへども。対面(たいめん)はかなふべからずといへば。鹿蔵(しかぞう)いひけるは。はゞりながら