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そはたがへり。葛城(かつらき)どのゝ物(もの)がたりをきけば。頃日(このごろ)雲(くも)に稲妻(いなづま)の衣裳(いしやう)を着(き)
たる侍(さふらひ)五人。かはる〴〵かの地(ち)に往来(わうらい)するよし。そのうち一人はかならず伴(ばん)左衛門
にて。外(ほか)は藻屑(もくづ)の三平(さんへい)等(ら)四人の者(もの)にうたがひなし。これはかねて御推量(ごすいりやう)の
ごとく。相公(との)をつり出(いだ)してかへり打(うち)にせん謀計(ぼうけい)にきはまれり。先(さき)だちて御
父君(ちゝぎみ)夢中(むちう)に告(つげ)玉ひしは。此事(このこと)にて候はん。殊更(ことさあら)葛城(かつらき)どのゝ誠心(せいしん)うたがふ所(ところ)
なければ。一度(ひとたび)かの地(ち)におんこしありて葛城(かつらき)どのをたのみ玉ひ。かれらが計(はかりこと)
のうらをかき。内外(ないぐわい)より相図(あひづ)をさだめ。五人 一等(いつとう)に打取(うちとり)玉はん良計(れうけい)こそ
あらまほしけれ。君父(くんふ)の讐(あた)には共(とも)に天(てん)を戴(いたゞか)ずと申せば。眼前(がんぜん)の敵(かたき)を見て
時(とき)を失(うしな)ひ玉はんこと。ゆめ〳〵あるべからず。復讐(ふくしう)の為(ため)花街(くわがい)にいたり玉ふ
こと。いかでか恥(はち)玉はんやといさめければ。山(さん)三郎げにもさりと思ひ。その夜(よ)鹿(しか)
蔵(ぞう)を具(ぐ)ししのびやかにして五条坂(こじやうざか)にいたり。神林(かんばやし)がもとをたづねて葛(かつら)
城(き)に対面(たいめん)しければ。葛城(かつらき)が㐂(よろ)びいふべうもあらず。山三郎は露(つゆ)ばかりもあだ
めきたる詞(ことは)はなく。終夜(よもすがら)只(たゞ)復讐(ふくしう)の計(はかりこと)を談(だん)じて朝(あさ)まだきにわかりれかへりぬ
これより后(のち)葛城(かつらき)がもとより。金銀 衣服(いふく)をおくりて山三郎をみつぎ心の誠(まこと)
をはこびければ。山三郎はたぐひまれなる女かなと感歎(かんたん)にたへざりけり葛(かつら)
城(き)は伴(ばん)左衛門が面(おもて)を見 知(し)らず。いづれをいづれとわかたねば。山三郎 毎夜(まいや)鹿(しか)
蔵(ぞう)をかの地(ち)につかはして。五人の者を打取べき便宜(びんぎ)をぞ待(まち)ける。鹿蔵(しかぞう)は深(ふか)き
笠(かさ)に顔(かほ)かくし袈裟衣(けさころも)を着(ちやく)し物乞(ものこひ)の道心坊(だうしんぼう)に打扮(いでたち)てしのびゆきける
とぞ。しかりといへども五人の者かはる〳〵往来(わうらい)して。五人 一同(いちどう)に来(きた)ることなく
もとよりその跡(あと)をつけゆくといへども。いつも帰路(きろ)をちがへてかへれは住所(ぢうしよ)も
さだかならず。只(たゞ)心(こゝろ)せかるゝばかりなり。それはさておきこゝにまた不破(ふは)伴(ばん)
左衛門 重勝(しげかつ)は。浪々(ろう〳〵)の身(み)といへども。密々(みつ〳〵)父(ちゝ)道犬(だうけん)かたより扶助(ふぢよ)しけれはゝ