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二 風前(ふうぜん)の灯火(ともしび)
爰(こゝ)に又。此(この)旅館(りよくわん)をあづかる家士(いへのこ)に。佐々良(さゝら)三八郎といふ。忠臣(ちうしん)無二(むに)の者(もの)
ありけり。兼(かね)て妻子(さいし)をおびて当(たう)館(やかたの)中(うち)に住(すみ)けるが。山(さん)三郎 帰国(きこく)の後(のち)
は。桂之助(かつらのすけ)の身持(みもち)益(ます〳〵)あしく成行(なりゆき)けるを深(ふか)く悲(かなし)み。主君(しゆくん)の前(まへ)に出(いて)て
諌(いさめ)けるは。虚病(きよびやう)をかまへ玉ふのみならず。旅館(りよくわん)に妾(そばめ)をめしつかひ玉ふ放佚(はういつ)
無慙(むざん)の御行跡(おんふるまひ)若(もし)室町(むろまち)御所(ごしよ)にきこえなば。ゆゝしき大事(だいじ)。御家(おんいへ)にも
かゝはることにはんべり。こひねがはくは藤波(ふちなみ)にいとまをつかはされ。御身持(おんみもち)を
あらためくださるべしと。何(なに)の憚(はゞか)る所もなく。おもふむねをのべて。しば〳〵
諌言(かんげん)せしかども。桂之助(かつらのすけ)耳(みゝ)にも聞入(ききいれ)ず。日をおひて悪行(あくこう)つのりければ。
三八郎 熟(つら〳〵)おもひけるは。かくばかり詞(ことば)を尽(つく)し理(り)を糺(たゞ)して諌(いさめ)まうすに。御聞(おんきゝ)
入(いれ)なきうへはせんすべなし。これ畢竟(ひつきやう)藤波(ふぢなみ)が色香(いろか)に迷(まよ)ひ玉ふゆゑなれば。