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前(さき)のごとくに名告(なのり)かくれば。かの侍(さふらひ)こゝろえたりといひながら。刀(かたな)の鞆(つか)に
手(て)をかくる所(ところ)を。山(さん)三郎をどりかゝりて腰車(こしぐるま)に斬(きり)けるが。直(じき)にたふれも
せず。二三十 歩(ほ)あゆみゆく。鹿蔵(しかぞう)はかの者(もの)逃去(にげゆく)とこゝろえて。あとをおいへ
てゆきけるに。かの者(もの)前(さき)にきられし者(もの)の死骸(しがい)につまづき。二ツになりて
ぞたふれける。山三郎が刀(かたな)は父(ちゝ)のかたみの左文字(さもじ)の名作(めいさく)斬人(きりて)は剣法(けんほふ)手(しゆ)
練(れん)の早業(はやわざ)。かくあるもことわりと鹿蔵(しかぞう)心(こゝろ)に感(かん)じけるが。山三郎 心(こゝろ)せき。伴
左衛門かいかに〳〵ととへば鹿蔵 屍(しかばね)をあらためみて。此者(このもの)は笹野(さゝの)蟹蔵(がいぞう)にて
候といへば。山三郎いひけるは。その者(もの)はまさしく伴(ばん)左衛門と思ひしに。それも
又かれにてはなかりしか。四人の者どもゝ伴(ばん)左衛門をたすけて。父(ちゝ)を打(うち)
たる仇人(かたき)なりといへども。本人(ほんにん)を打(うた)ざるうちは安堵(あんど)ならず。つゞきて
来(く)べきはづなるにといぶかりつゝ。やゝしばらく待(まつ)といへども。人影(ひとかげ)も見へ