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の館(やかた)にひきて。今出川相公(いまでがはどの)の命(めい)をうけて誅戮(ちうりく)をくはふべし。いかに山(さん)三
郎 先刻(せんこく)某(それがし)同伴(どうはん)して。東(ひがし)の殿(でん)にひかへさせおきつる。桂(かつら)之助 夫婦(ふうふ)を是(これ)へ
いざなひ来(きた)るべしといふにぞ。山(さん)三郎かしこみ候とて。行廊(ほそどの)のかたにゆき。
いざこなたへとよばゝれば。かねて用意(ようい)やしたりけん。佐々木(さゝき)桂(かつら)之助 国知(くにとも)。
折烏帽子(をりゑぼし)に大紋(だいもん)の直垂(ひたゝれ)を着(ちやく)し。右鞘巻(みぎざやまき)をおびていで来(きた)る。つゞきて
いてふの前(まへ)。纐纈(かうけち)の小袖(こそで)に摺箔(すりはく)の袿衣(うちき)をかけ。とめ木(き)のかほり馥郁(ふくいく)とし
て蓮歩(れんほ)をうつす。次(つぎ)に月若(つきわか)此時(このとき)に十三 歳(さい)。髪(かみ)を生立(おひたて)て総角(あげまき)にむすび。
小素襖(こずおう)に烏帽子(ゑぼし)かけて相(あひ)したがふ。はるか下(くだ)りて佐々良(さゝら)三(さん)八郎。剃髪(ていはつ)の
姿(すがた)となり。僧衣(そうい)を着(ちやく)し。妻(つま)礒菜(いそな)。娘(むすめ)楓(かへで)を具(ぐ)していて来(きた)り。かの百蟹(ひやくがい)の
巻物(まきもの)をうや〳〵しくさゝげて貞国(さだくに)に呈(てい)し。おの〳〵座(ざ)をさだめければ。梅津(うめづ)
嘉門(かもん)景春(かげはる)威儀(いぎ)をつくろひ。いかに国知(くにとも)ぬし。今(いま)志(こゝろざし)をあらためられたるに
より。家(いへ)相続(さうぞく)の儀(ぎ)を命(めい)ぜられて。御教書(みぎやうしよ)をたまはりぬ。いざうけとり候へとて
相渡(あひわた)せば。桂(かつら)之助おし頂(いたゞ)き。館(やかた)のおん慈悲(じひ)官領(くわんれい)の御仁心(ごじんしん)世(よ)にありがたく候
といひておさむれば。判官(はんぐわん)貞国(さだくに)をはじめとして皆(みな)一同(いちどう)に㐂(よろこ)ぶ事(こと)限(かぎ)りなし。
さて桂(かつら)之助 父(ちゝ)にむかひ。佐々良(さゝら)三八郎 夫婦(ふうふ)の忠義(ちうぎ)。兄弟(きやうだい)の児等(こどもら)が孝心(かうしん)を
ものがたりければ。名古屋(なごや)山(さん)三郎は。不破(ふは)伴(ばん)左衛門 等(ら)五人の者(もの)を打(うち)て父(ちゝ)の
仇(あた)をむくいたる始末(しまつ)。ならびに鹿蔵(しかぞう)猿(さる)二郎が忠義(ちうぎ)の子細(しさい)をかたりけるにぞ。
貞国(さだくに)打聞(うちきゝ)て転(うたゝ)感嘆(かんたん)に堪(たへ)ざりけり。時(とき)に梅津(うめづ)景春(かげはる)いひけるは。悪人(あくにん)亡(ほろび)忠(ちう)
臣(しん)孝子(かうし)あらはるれば。当家(とうけ)益(ます〳〵)繁昌(はんじやう)し子孫(しそん)長久(ちやうきう)うたがひなし。時刻(じこく)うつれば
某(それがし)ははやまかりかへるべしといひて立(たち)あがり。従者(じゆうしや)に命(めい)じて道犬(だうけん)ならびに
頼豪院(らいごういん)を。檻車(かんしや)に乗(のせ)てかきいださしむれば。貞国(さだくに)国知(くにとも)をはじめとして皆(みな)一(いち)
同(どう)に景春(かげはる)をおくり出(いで)て。恭(うや〳〵)しく礼(れい)をおこなふ景春(かげはる)つひにわかれを告(つげ)て