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乗物(のりもの)に打(うち)のり。行列(ぎやうれつ)うたせてかへりけり。さるほどに官領(くわんれい)の館(やかた)において。
再(ふたゝび)又(また)道犬(だうけん)を糺明(きうめい)あり。一味(いちみ)の輩(ともがら)を尽(こと〴〵)く捕(とら)へて頼豪院(らいごういん)と共(とも)に誅戮(ちうりく)し
玉ひ。道犬(だうけん)は殊(こと)に大罪(だいざい)の者(もの)なればおもき刑(けい)をくはへ玉ふ。さて名古屋(なごや)山(さん)三
郎。並(ならび)に佐々良(さゝら)三八郎 夫婦(ふうふ)。娘(むすめ)。鹿蔵(しかぞう)猿(さる)二郎 等(ら)までめされて。その忠義(ちうぎ)
孝行(かう〳〵)貞節(ていせつ)を御賞美(ごしやうび)あり。それ〳〵にそくばくの賞金(しやうきん)をたまはり
ければ。皆(みな〳〵)感涙(かんるい)をおとしてかへりぬ。さて判官(はんぐわん)貞国(さだくに)薙髪(ちはづ)して桂(かつら)之助に家(いへ)
をゆづり。平郡(へぐり)の別館(べつくわん)にうつり住(すみ)。名古屋(なごや)山(さん)三郎を執権(しつけん)とし父(ちゝ)三郎左
衛門が禄(ろく)に。道犬(だうけん)が禄(ろく)をくはへて与(あた)へければ。昔(むかし)に十 倍(ばい)して富(とめ)る身(み)と成(なり)。
鹿蔵(しかぞう)猿(さる)二郎に禄(ろく)をわかちとらしめて忠義(ちうぎ)を賞(しやう)じければ。両人(りやうにん)面目(めんぼく)を
施(ほどこ)して㐂(よろこ)びぬ。扨(さて)又 浮世(うきよ)又平(またへい)は。百蟹(ひやくがい)の巻物(まきもの)を一覧(いちらん)して画道(ぐわだう)の奥(おく)
妙(みやう)をきはめ。師匠(しゝやう)戸佐(とさ)正見(しやうけん)の勘気(かんき)をゆるされ。戸佐(とさ)又平(またへい)重起(しげおき)と
名告(なのり)。梅津(うめづ)嘉門(かもん)の吹挙(すいきよ)によりて義政公(よしまさこう)の絵所(ゑどころ)となり。妹(いもと)於竜(おりう)は曽(かつ)て兄(あに)に
学(まな)びて自然(しぜん)と画道(ぐわだう)の妙(みやう)をきはめたれば。世(よ)におりう絵(ゑ)と称(しやう)じてその名(な)
高(たか)くきこえぬ。佐々良(さゝら)三八郎は抜群(ばつくん)の忠臣(ちうしん)なれば。桂(かつら)之助ぢもく禄(ろく)を
あたへんとおぼされけるが。今(いま)は桑門(よすてびと)の身(み)なればとて禄(ろく)をうけざればせん
すべなく。唯(たゞ)数百金(すひやくきん)をあたへけるに。身(み)に応(おう)ぜざるたまものなりとて再(さい)
三(さん)辞(じ)しけれども。しひてたまはりければ。その金(かね)を以(もつ)て長谷部雲六(はせべのうんろく)が
妹(いもと)八重垣(やへがき)をあがなひ出(いだ)して家(いへ)に養(やしない)おきぬ。これはその誠心(せいしん)を感(かんじ)ての
事(こと)とぞ。さて山(さん)三郎は葛城(かつらき)が志(こゝろざし)をあはれみ。神林(かんばやし)がもとに金(かね)あまたおく
りて追福(つひふく)をいとなませ。一生(いつしやう)妻(つま)をめとらじとちかひけるよしを。三八郎 打(うち)
聞(きゝ)て。のちなきは不孝(ふかう)の第一(だいいち)なりとすゝめ。かの八重垣(やへがき)をおくりて妾(てかけ)と
なさしむ。ほどなく男子(なんし)をまうけ。後(のち)にこれを名古屋(なごや)小山三(こさんざ)と称(しやう)す。