翻刻!江戸の医療と養生

コレクション: 模範解答付きコレクション1

昔話稲妻表紙 - 翻刻

昔話稲妻表紙 - ページ 24

ページ: 24

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ろげ。已(すで)に腹(はら)につきたてんとせしが。俄(にはか)におもひなほしけるは。いな〳〵今(いま) 死(し)すべき命(いのち)にあらず。人の見とがめぬこそ幸(さいはひ)なれ。不破(ふは)道犬(だうけん)が為体(ていたらく) お家(いへ)を乱(みだ)すべききざしあり。これよりすぐに出奔(しゆつほん)し。権(しばし)命(いのち)をながらへて。 よそながら主君(しゆくん)の目代(めじろ)となり。彼(かれ)が悪意(あくい)を見あらはし。其後(そのゝち)此(この)藤波(ふぢなみ)が 所縁(ゆかり)の者(もの)の。恨(うらみ)の刃(やいば)にかゝりて死(しな)んこそ武士(ぶし)の道(みち)なるべしと。心(こゝろ)をさだめ て死骸(しがい)にむかひ。忠義(ちうぎ)の為(ため)とはいひながら。科(とが)なきおことを無代(むたい)に殺(ころ) せし。不便(ふびん)さよ。やがて此(この)身(み)も刃(やいば)にかゝり。冥途(めいど)において分説(いひわけ)せんと掌(て)を 合(あは)せ。南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)〳〵と。口(くち)の裏(うち)に回向(ゑかう)して。退(しりぞ)き出(いで)んとしたる折(をり)しも。 藤波(ふぢなみ)が妹(いもと)の於竜(おりう)。姉(あね)の下(さが)りのいつより遅(をそ)きを案(あん)じ。むかひの為(ため)手燭(てしよく)を ともして何(なに)の心(こゝろ)もなく此(この)所(ところ)まで来(き)かゝり。三八郎と顔(かほ)見合(みあは)せ。此(この)血(ち)しほ はとおどろきて。声(こへ)たてければ。三八郎 手(て)ばやく刀(かたな)の□(みね)打(うち)に。手燭(てしよく)をはつ しと打落(うちおと)し。吻(ほ)とため息(いき)つきもあへず。又 庭(には)つたひに逃出(にげいで)けるが。深夜(しんや)と いひ夜嵐(よあらし)ます〳〵烈(はげ)しければ。誰一人(たれひとり)これを知(しる)者(もの)なかりけり。かくて三八郎 我家(わがや)にかへり。妻(つま)礒菜(いそな)にしか〴〵の事(こと)を語(かた)り。いそがはしく。身支度(みじたく)して。 たくはへの金子(きんす)を懐(ふところ)にし。おのれは今年(ことし)十二才になる楓(かへで)といふ娘(むすめ)をせおひ。 妻(つま)には七才になる栗(くり)太郎といふ男子(なんし)をおはせ。夫婦(ふうふ)しのびやかに 後門(うらもん)より逃出(のがれいで)けるが。四方(しはう)暗々(あん〳〵)として東西(とうざい)を弁(へん)ぜず。雨(あめ)はやゝつよく降(ふり) て篠(しの)をつかぬるがごとくなれども。雨衣(あまぎぬ)をだに身(み)につけねば。濡衣(ぬれぎぬ)足(あし)に まとひつきて歩(あゆ)みがたく。素足(すあし)なれば道(みち)ぬめりて心(こゝろ)のみ前(さき)に走(はし)り 身(み)はあとへ引(ひか)るゝこゝちし。おぼへず背後(うしろ)を顧(かへりみ)れば。怪哉(あやしいかな)心火(しんくわ)ぱつと燃(もへ) 上(あか)り藤波(ふぢなみ)が姿(すかた)かげろひのごとくあらはれて。行(ゆく)をやらじと引(ひき)とゞむ。 三八郎 此(この)時(とき)身(み)うちぞつと冷(ひへ)とほりけるが。刀(かたな)を抜(ぬい)て斬払(きりはら)ひ妻(つま)の