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重宝(ちやうほう)といひ。いまだ室町御所(むろまちごしよ)の御覧(ごらん)も済(すま)ざるよし。若(もし)是等(これら)のこと
此うへおん聞(きゝ)に達(たつ)しなば。いかなる御咎(おんとがめ)あらんもはかりがたし。御痛(おんいた)
はしくは候へども。とく〳〵御立退(おんたちのき)候へかし。後日(ごにち)某(それかし)身(み)にかへても。御(ご)
帰参(きさん)あるやう取(とり)はからひ申すべし。只(たゞ)恙(つゝが)なくおはしまして時(とき)の
いたるを待(まち)玉へ。かの女の死骸(しがい)は縁者(えんじや)を召叫(めしよび)て引渡(ひきわた)し候べしと
いひて。先(まづ)おのれが家来(けらい)に命(めい)じて四人の者(もの)を追払(おひはらは)せければ。桂之助(かつらのすけ)
もせんかたなく。打(うち)しほれつゝ出去(いでゆき)ける。心(こゝろ)のうちおもひやられて
哀(あわれ)なり。かくて道犬(だうけん)藤波(ふぢなみ)が縁者(えんじや)をよび。死骸(しがい)ならびに妹(いもと)於竜(おりう)
を引渡(ひきわた)し。館(やかた)の財宝(ざいほう)雑具(ざうぐ)をとりおさめ。(けらい)おのれが家来(けらい)をとゞめて
守(まも)らせ。たゞちに帰国(きこく)をいそぎけり
○後(のち)〳〵此時(このとき)の子細(しさい)を聞(きく)に。是(これ)皆(みな)道犬(だうけん)が奸計(かんけい)より出(いで)たる事(こと)
なり。近曽(ちかごろ)由理之助(ゆりのすけ)勝基(かつもと)。浜名(はまな)入道(にうだう)両官領(りやうくわんれい)確執(くわくしつ)となり。入道(にうだう)
勝基(かつもと)を打亡(うちほろぼ)さん結構(けつかう)専(もつはら)なりけるが。兼(かね)て不破(ふは)道犬(だうけん)浜名(はまな)入道(にうだう)
に内通(ないつう)して媚諂(こびへつらひ)官領(くわんれい)の権威(けんい)をかりて。奸計(かんけい)を施(ほどこ)し。佐々木(さゝき)の
家(いへ)を奪(うば)ひ。浜名(はまな)の味方(みかた)につかんと約(やく)し。児子(せがれ)伴(ばん)左衛門 其(その)余(よ)
蟹蔵(がいぞう)等(ら)にいひふくめて。桂之助(かつらのすけ)に放埒(はうらつ)をすゝめ。密々(みつ〳〵)浜名(はまな)に
告(つげ)。内意(ないい)をいはせて勘当(かんだう)をうけしめ。わざと蟹蔵(がいそう)等(ら)四人の者(もの)
を追払(おひはらひ)て。一家中(いつかちう)の心(こゝろ)をゆるさせ。伴(ばん)左衛門とゝもに他所(たしよ)にかくまひ
おき。何(なに)不足(ふそく)なく扶助(ふぢよ)して。おのれが目代(めじろ)とし。内外(ないぐわい)より事(こと)を
計(はから)んたくみなり。只(たゞ)おのれ等(ら)が一ツ心(こゝろ)よりいでたるは。伴(ばん)左衛門 藤波(ふぢなみ)
に恋慕(れんぼ)したると。雲六(うんろく)が巻物(まきもの)を盗(ぬすみ)て逃去(にげさり)たると。此(この)二ツのみ
なりとぞ