翻刻!江戸の医療と養生

コレクション: 模範解答付きコレクション1

昔話稲妻表紙 - 翻刻

昔話稲妻表紙 - ページ 33

ページ: 33

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  四 荒屋(あはらや)の奇計(きけい) 山城国(やましろのくに)葛野郡(かとのこほり)松尾(まつのを)の近(ちか)きに。梅津(うめづ)の里(さと)梅津川(うめづかは)といふあり。ともに古(こ) 歌(か)に詠(ゑい)じたる所(ところ)なり。そのかみ元享(げんかう)の頃(ころ)此(この)里(さと)に梅津(うめづ)豊前(ぶせんの)左衛門(さゑもん) 清景(きよかげ)といふ人ありけり。此(この)所(ところ)の領主(れうしゆ)にて。家(いへ)富(とみ)栄(さかへ)たる武士(ぶし)なりける か。其頃(そのころ)月林(げつりん)大幢(たいどう)国師(こくし)。洛北(らくほく)岩蔵(いはくら)の庵室(あんしつ)におはすを深(ふか)く尊信(そんしん)し 法名(ほふみやう)を是球(ぜきう)と称(しやう)じ。領所(れうしよ)のうちを附与(ふよ)して禅刹(ぜんせつ)とす。今(いま)の大梅(たいばい) 山(ざん)長福寺(ちやうふくじ)といふは乃(すなはち)是(これ)なり。清景(きよかげ)の墓(はか)今(いま)に此(この)寺(てら)にあり。扨(さて)此(この)清景(きよかげ)の 子孫(しそん)に梅津(うめづの)嘉門(かもん)といふ者(もの)あり。累代(るいたい)此(この)里(さと)に住(すみ)けるが漸(しだい)々に零落(れいらく)し 今(いま)嘉門(かもん)が時(とき)にいたりて益(ます〳〵)困窮(こんきう)す。嘉門(かもん)年(とし)いまた初老(しよろう)にいたらず。 聡明(そうめい)聚(しゆうに)秀(ひいで)胆力(たんりき)人(ひと)に過(すぎ)。世(よ)に希有(けう)の英雄(ゑいゆう)なり。曽(かつ)て六韜(りくとう)三略(さんりやく)に眼(まなこ) をさらして。軍略(ぐんりやく)の妙所(みやうしよ)をきはめ。弓馬(きうば)鎗刀(そうとう)のたぐひ。武芸(ぶげい)の奥儀(おはうぎ) を暁(さと)し。天文(てんもん)地理(ちり)神機(しんき)妙算(みやうさん)進退(しんたい)懸引(かけひき)の道(みち)。其(その)理(り)を得(え)ざるといふ ことなし。そのゆゑに英名(ゑいめい)かくれなく。高禄(かうろく)を与(あた)へてめし抱(かゝへ)んと。懇(こん) 望(ばう)の諸侯(しよこう)おほかりけるが。名利(みやうり)に屈(くつ)するをきらひて仕官(しくわん)をのぞまず。 常(つね)に松尾山(まつのをやま)にのぼり。採薬(さいやく)して薬店(やくてん)にひさき。細(ほそき)煙(けふり)をたて清貧(せいひん)をまも りて。いさゝかも奢(おごり)の心(こゝろ)なく。一人の老母(ろうぼ)に孝行(かう〳〵)を尽(つく)し。姿(すがた)も斬髪(だんはつ)にや つし。いとまには先祖(せんぞ)清景(きよかげ)大幢(たいどう)国師(こくし)より伝来(でんらい)の禅味(ぜんみ)をあまんじ。 世(よ)に諂(へつ)らはぬ暮(くら)し。実(じつ)に一世(いつせい)の賢士(けんし)とは知(し)られぬ。母(はゝ)も又 賢女(けんぢよ)にて。今(いま)の 世(よ)やうやく治平(ぢへい)といへとも。仕(つか)へさすべき明君(めいくん)なしと心(こゝろ)を決(けつ)し。嘉門(かもん)が名利(みやうり)に 屈(くつ)せざるを喜(よろこ)ひ。てづから布(ぬの)を織(おり)て日々(ひゞ)の費(ついへ)にかへ。いさゝかも貧苦(ひんく)を愁(うれひ)ず 暮(くら)しぬ。しかるに頃日(このごろ)彗星(けいせい)あらはるゝにより。諸人(しよにん)心安(こゝろやす)からず吉凶(きつきよう)を弁(べん)ずる 者(もの)なかりけるが。一夜(あるよ)嘉門(かもん)椽先(ゑんさき)に立出(たちいで)。かの星(ほし)をあふき見(み)。母(はゝ)をまねきて