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いひけるは。抑(そも〳〵)我(わが)朝(ちやう)に彗星(けいせい)あらはれたる事(こと)。皇極(くわうきよく)天皇(てんわう)の御宇(ぎよう)。蘇我(そが)の入鹿(いるか)
叛乱(ほんらん)の時(とき)。始(はじめ)て此(この)星(ほし)あらはれしより。今(いま)にいたるまて一度(ひとたび)も祥端(しやうすい)なること
なし。凡(をよそ)彗(けい)に五ツあり。其(その)色(いろ)蒼(あをき)ときは王候(わうこう)破(やぶ)れて天子(てんし)兵革(ひやうかく)に苦(くるし)み。赤(あかき)
ときは凶賊(きようぞく)起(おこ)りて国人(くにうど)安(やす)からず。黄(き)なるときは女色(によしよく)害(がい)をなす。白(しろき)ときは将(しやう)
軍(ぐん)叛(そむい)て兵乱(ひやうらん)大に起(おこ)る。黒(くろ)きは水(みづ)の精(せい)にて。洪水(こうずい)河(かは)に溢(あふれ)て五穀(ごこく)登(みのら)ずあれ
見玉へ此度(このたひ)の彗星(けいせい)。其(その)色(いろ)蒼(あをき)に黄(き)をおびたり。まさしく是(これ)牝鶏(ひんけい)晨(あさなき)して
婦女(ふぢよ)権(けん)を奪(うばひ)。天子(てんし)兵革(ひやうかく)に苦(くるし)み玉ふ前兆(ぜんちやう)にて候はん。母人(はゝびと)はいかゝおもひ
玉ふやらんといへば。老母(ろうぼ)点頭(うなづき)。我(われ)もとくにその心(こゝろ)つきぬ。花(はな)の都(みやこ)狐狼(こらう)の
伏土(ふしと)とならんこと遠(とほ)からじ。はやく此(この)所(ところ)を去(さ)り山林(さんりん)にかくれて兵乱(ひやうらん)を
避(さく)るにしくべからずといひけるが。此後(このゝち)果(はた)して応仁(おうにん)の大乱(たいらん)起(おこ)りぬ母子(ぼし)
両人の先見(せんけん)誠(まことに)是(これ)あきらかなりといふべし。此頃(このころ)由理之助(ゆりのすけ)勝基(かつもと)浜名(はまな)
入道(にうたう)両(りやう)官領(くわんれい)なりしが。勝基(かつもと)は浜名(はまな)が婿(むこ)にてしたしきうへ子(こ)なきゆゑ。浜名(はまな)
が子(こ)を養(やしなひ)けるが。勝基(かつもと)実子(じつし)出来(いでき)ければ。其(その)養子(やうし)を僧(そう)とす。これより両家(りやうけ)
碓執(かくしつ)となり。浜名(はまな)勝基(かつもと)を打亡(うちほろぼ)し。おのれひとり権威(けんい)をほしいまゝにせん
と欲(ほつ)し。密々(みつ〳〵)野伏(のぶし)浪人(らうにん)どもを召抱(めしかゝへ)けるが。嘉門(かもん)が軍略(ぐんりやく)に達(たつ)したる事を
聞(きゝ)および。召抱(めしかゝへ)んと使者(ししや)を以(もつ)ていひ入(いれ)けり。嘉門(かもん)は兼(かね)て入道(にうだう)が行跡(ふるまひ)をにく
み居(ゐ)たるうへに。使者(ししや)ののぶる所(ところ)専(もつはら)官領職(くわんれいしよく)の権威(けんい)をふるひ。無礼(ぶれい)の詞(ことば)おほ
かりければ。嘉門(かもん)心中(しんちう)に憤(いきどほり)。招(まねき)に応(おう)ぜさるのみか。かへりて入道(にうだう)が日来(ひごろ)の
不道(ふたう)をかぞへてさみし辱(はづかし)め。きびしくいひはなちけるにそ。使者(ししや)面目(めんぼく)を
失(うしな)ひほう〳〵の体(てい)にて立帰(たちかへ)り。入道(にうだう)に嘉門(かもん)がいひつる様(やう)を。あからさまに
告(つげ)きこゆ。入道(にうだう)聞(きゝ)もあへず大に憤発(ふんはつ)し。やをれにくき腐(くされ)儒者(じゆしや)めかな。
憂目(うきめ)を見せて後悔(こうくわい)させんと。家来(けらい)岩坂(いはさか)猪之(いの)八といふ荒男(あらしを)に。大力(だいりき)の