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組子(くみこ)二十 余(よ)人を撰(えらび)与(あた)へ。彼奴(きやつ)も智謀(ちぼう)武術(ぶじゆつ)に秀(ひいで)たる者(もの)なれば。若(もし)手(て)にあま
らば首(くび)にして持(もち)かへれと命(めい)ず。血気(けつき)にはやる猪之(いの)八かしこみ候と答(こた)へ。
小具足(こぐそく)に身(み)をかため。彼奴(きやつ)たとへ楠(くすのき)が智(ち)をたくはへ。義経(よしつね)の早業(はやわざ)を得(え)たり
とも。痩浪人(やせらうにん)の分際(ぶんざい)何程(なにほど)の事かあらん。黄土小屋(はにふのこや)を踏(ふみ)つふし首(くび)すぢつかみ
ゐてかへらんと広言(くわうげん)吐(はけ)ば。思慮(しりよ)もなき組子等(くみこども)いさみすゝみて相(あひ)したがひ
梅津(うめつ)の里(さと)へ急(いそぎ)ゆく嗚呼(あゝ)嘉門(かもん)が身(み)のうへ危(あやう)かりける次第(しだい)なり此(この)時(とき)
宵闇(よひやみ)の夜(よ)なりけるが。猪之(いの)八 等(ら)嘉門(かもん)が家(いへ)に近(ちか)づく比(ころ)。月影(つきかげ)あがりて
明(あきらか)なり。嘉門(かもん)は灯下(ともしびのもと)に書(しよ)を読(よむ)壁人(かげぼうし)。あかり障子(しやうじ)にうつりてたしかに見(み)ゆ。
しで打(うつ)砧(きぬた)の音(おと)するは老母(ろんぼ)の手業(てわさ)とおぼし。猪之(いの)八 等(ら)は竹林(たけやぶ)のうちに
身(み)をひそめ。権(しばらく)便宜(ひんぎ)をうかゞひ居(ゐ)たるに。嘉門(かもん)宿鳥(ねぐらのとり)の鳴(なき)さはぐを聞(きゝ)つけ。
あな笑止(しやうし)や我(わが)推量(すいりやう)にたがはず。命(いのち)しらずの愚人(ぐにん)ども。我家(わがや)を襲(おそふ)とおぼへ
たり。いで皆殺(みなごろ)しにしてくれんぞと。灯火(ともしび)ふきけして其後(そのゝち)音(おと)もなし。猪之(いの)八
これを聞(きゝ)。にくき奴(やつ)めがいひごとかな。はやく搦捕(からめとり)て手柄(てがら)にせよ者(もの)どもと
下知(げぢ)しつゝ。先(さき)にすゝみて門外(もんぐわい)より声(こへ)高(たかく)。これは官領職(くわんれいしよく)の厳命(げんめい)をかうふり。
嘉門(かもん)をめし捕(とらん)ため岩坂(いはさか)猪之(いの)八むかふたり。いそぎ門(もん)をひらき。尋常(しんじやう)に
縄(なは)かゝれとよばゝれば。障子(しやうじ)のうちに呵々(から〳〵)と笑(わらふ)声(こへ)し。汝等(なんぢら)がごとき鼠輩(そはい)
はおろかたとへ。浜名(はまな)入道(にうだう)みづから数百騎(すびやくき)を以(もつ)て攻(せむ)るとも更(さら)におそるゝ所(ところ)
なし。嘉門(かもん)が居宅(ゐたく)は鉄壁(てつへき)石門(せきもん)要害(やうがい)堅固(けんご)の城郭(しやうくわく)も同然(どうぜん)なり。命(いのち)おし
くは頭(かうべ)をおさへてはやく逃(にげ)かへれとあざけりいふ。猪之(いの)八 等(ら)大に恕(いかり)。門(もん)を
ひらかんとするに堅(かたく)とざしたり。しやもの〳〵しと力(ちから)をきはめてぐつと
押(おす)に。ほぞゆるまりてくつろぐを。ゑいやつと踏破(ふみやぶ)り。大勢(おほぜい)一度(いちど)にこみ入て。
椽(ゑん)の上(うへ)に飛上(とびあが)り。障子(しやうじ)をさつとひらけば。一間(ひとま)をへたてゝ梅津(うめづの)嘉門(かもん)