翻刻!江戸の医療と養生

コレクション: 模範解答付きコレクション1

昔話稲妻表紙 - 翻刻

昔話稲妻表紙 - ページ 37

ページ: 37

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萌黄(もへぎ)薫(にほひ)の腹巻(はらまき)のうへに。金紗(きんしや)の道服(だうぶく)を著(ちやく)し。金作(こがねづくり)の円鞘(まるざや)の太刀(たち)を はき。手(て)に文曲(ぶんきよく)武曲(ぶきよく)の二 星(せい)を画(ゑがき)たる軍扇(ぐんせん)をとりて床机(しやうぎ)にかゝりたる 形勢(ありさま)。志気(しき)堂々(とう〳〵)威風(いふう)凛々(りん〳〵)として。いかにも一個(いつこ)の英雄(ゑいゆう)と見へたりけり 老母(ろうぼ)はふるびたれども。摺箔(すりはく)の昔模様(むかしもやう)の袿衣(うはきぬ)を壷折(つぼをり)て著(ちやく)し。雪(ゆき)をあざ むく白髪(しらが)をたれ。玉(たま)だすきかけてかい〴〵しく打扮(いでたち)。銀(ぎん)の蛭巻(ひるまき)したる長刀(なぎなた) を小脇(こわき)にかいはさみて。傍(かたはら)にひかへたる姿(すがた)。老木(おいき)の梅(うめ)にいにしへの薫(かほり)残(のこ)りて 奥(おく)ゆかし。左(ひだり)の方(かた)に千金弩(せんきんど)と称(しやう)じて。一発(いつはつ)数(す)十の箭(や)を飛(とば)す兵器(へいき)を すゑ。右(みぎ)には近頃(ちかごろ)蛮国(ばんこく)より渡(わた)り。磐石(ばんじやく)をも打砕(うちくだ)く火術(くわじゆつ)の具(ぐ)。五六 挺(てふ) 筒先(つゝさき)をそろへてならべたり。勢(いきほひ)こみたる組子等(くみこども)飛道具(とびだうぐ)に心(こゝろ)おくれ。 すゝみかねたるを見て猪之(いの)八 声(こゑ)を励(はげま)し。賦甲斐(ふがひ)なき者(もの)どもかな。わづか に嘉門(かもん)一人の外(ほか)はかよわき老女(ろうぢよ)なり。たとへ三面(めん)六 臂(ぴ)ありとも。いかでか 数々(かづ〳〵)の箭玉(やだま)をはなつことあたはんや。見せかけばかりの兵具(ひやうぐ)おそるゝ にたらず。はやくよりて搦捕(からめとれ)。若(もし)とり逃(にが)さば我(われ)々が越度(おちど)なりと下知(げぢ) するにぞ。組子等(くみこども)げにもさりと思ひ。我先(われさき)とあらそひ飛(とび)かゝらんと したる所(ところ)に。嘉門(かもん)軍扇(ぐんせん)をあげて一(ひと)あふぎあふげば。兼(かね)て用意(ようい)の焰硝(ゑんせう) 縄(なは)に灯火(ともしび)うつり。綱火(つなび)となりて五六 挺(てふ)の火術(くわじゆつ)の具(ぐ)。一度(いちど)に発(はつ)し。其(その) ひゞき大雷(たいらい)のごとく。数(かづ)の鉄丸(てつぐわん)飛出(とびいで)て。前(まへ)にすゝみたる組子(くみこ)十 余(よ)人 打倒(うちたふ)され。煙(けふり)のうちにのたり伏(ふ)す。老母(ろうぼ)は長刀(なぎなた)の鐏(いしづき)を以(もつ)て弩(いしゆみ)を一(ひと)つき つけば。数(す)十の箭雨(やあめ)のごとく飛(とび)かゝりて。組(くみ)子を残(のこ)らず射伏(いふせ)たり。 猪(い)之八は手(て)ばやく畳(たゝみ)を盾(たて)にして箭玉(やたま)をのがれ。逃出(にげいで)んとしたるに 忽(たちまち)板敷(いたしき)磊落(ぐわら〳〵)とひるがへり。深(ふか)き落(おと)し穴(あな)のうちに噇(がう)とおちいり。底(そこ)にうゑ たる剣(つるぎ)に身(み)をつらぬかれ。朱(あけ)に染(そま)りて死(し)してげり。嘉門(かもん)かねて是等(これら)の