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翻刻
昔話(むかしがたり)稲妻(いなつま)表紙(びやうし)巻之二
江戸 山東京伝編
五 厄神(くわじん)の報恩(ほうおん)
扨(さて)も佐々良(さゝら)三八郎は。妻子(さいし)を具(ぐ)して丹波(たんば)の国(くに)にいたり。大江山(おほえやま)の麓(ふもと)。穴(あな)
太(ふ)の里(さと)にかくれ住(すみ)けるが。少々(しやう〳〵)のたくはへも。日(ひ)々の費(ついへ)につかひすて。別(べつ)になりわひの
便(たより)もなければ。みづから山畑(やまばた)をたがやし。仕馴(しなれ)ぬ業(わざ)の辛苦(しんく)にたへず。妻(つま)礒菜(いそな)は
当国(とうこく)の名産(めいさん)なる藺莚(いむしろ)を編(あみ)。市(いち)にひさきてわづかの価(あたひ)をとり。夫婦(ふうふ)とも
かせぎにして。両人(ふたり)の児等(こどもら)を育(そだて)。権(しばし)月日(つきひ)をおくりぬ。しかるに三八郎
おもへらく。忠義(ちうぎ)の為(ため)とはいひながら。罪(つみ)なき藤波(ふぢなみ)を殺(ころ)せし事。かへす〳〵も
不便(ふびん)なり。後(のち)に聞(きけ)ば。若殿(わかとの)御勘当(ごかんどう)をうけられ。御行方(おんゆくへ)なくなり玉ひつるよし。
我(わが)心(こゝろ)づくしも藤波(ふぢなみ)が非業(ひごう)の死(し)もみな水(みづ)の泡(あは)。かいなき事(こと)となれり。せめては彼(かれ)が