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感(かん)じ玉ひけるにや。満願(まんぐわん)の夜(よ)より。母(はゝ)の病(やまひ)やうやくおこたり。一月(ひとつき)ばかりの
うちに全快(ぜんくわい)し。気力(きりよく)かへりて前(まへ)よりもなほ盛(さかん)になりぬ誠(まことに)是(これ)孝行(かう〳〵)の
㓛徳(くとく)大なるるゆゑなりかし
○孝子(かうし)の物語(ものがたり)のついでに記(しる)して。世(よ)の童子(どうじ)にしめすことあり。明心(めいしん)
宝鑑(ほうかん)といふ書(しよ)に。我(われ)親(おや)に孝行(かう〳〵)なれば。子(こ)も又 我(われ)に孝行(かう〳〵)をなす
ものなり。おのれ既(すで)に不孝(ふかう)なれば。子(こ)も又なんぞ孝行(かう〳〵)ならん。われ
孝順(かうじゆん)なれば。又 孝順(かうじゆん)の子(こ)を持(もつ)なり。此(この)事(こと)疑(うたがは)しく思(おも)はゞ。簷(のき)より点々(はつ〳〵)
滴々(てき〳〵)と落(をつ)る雨(あま)しづくを見(み)よ。とく〳〵と落(おつ)るつぼをたがへずといへり。されば
我(われ)父母(ふぼ)の老後(ろうご)を安穏(あんおん)ならしめば。我(われ)も又 老後(ろうご)安穏(あんをん)なること疑(うたがひ)なし
○又 世範(せいはん)といふ書(しよ)におよそ人(ひと)の子としては。身(み)をおわるまてすこしも
父母(ふぼ)の心(こゝろ)にそむかず。孝道(かうたう)をつくすべきなり。父母(ふほ)身(み)まかりてのちも。
其(その)霊(れい)に対(たい)して。存生(ぞんじやう)にいひおかれたることをそむくべからず。
いかほど孝道(かうたう)をつくすとも。おのれが幼少(ようしやう)の時(とき)。父母(ふほ)の愛(あひ)念(ねん)
撫育(ふいく)の恩(おん)をば報(ほうす)ることなりがたし。世間(せけん)の孝道(かうだう)をつくすこと
あたはざるもの。他人(たにん)の小児(しやうに)を育(そだて)あぐるその情愛(じやうあひ)の厚(あつ)きを
見(み)て。父母(ふぼ)の苦労(くろう)を思(おも)はゞ自(おのづから)悟(さと)るべしといへり。古(いにしへ)より孝(かう)を尽(つく)し
て天(てん)のめぐみをかうふり。あるひは立身(りつしん)出世(しゆつせ)して高禄(かうろく)の人(ひと)となり。
或(あるひ)は運(うん)をひらき千金(せんきん)を得(え)富貴(ふうき)の身(み)となりたる例(ためし)。あげてかぞふ
べからず。又 不孝(ふかう)にして天(てん)の罰(ばつ)をかうふり。病苦(びやうく)貧苦(ひんく)をうけ。悪(あく)
獣(じふ)毒虫(どくちう)に害(がい)せられ。雷(らい)にうたれなどして非命(ひめい)に死(し)したる例(ためし)も
又すくなからず。されば幼(いとけなき)ときより。孝道(かうだう)は人倫(じんりん)第一(だいいち)の道(みち)
決定(けつぢやう)の役儀(やくぎ)といふ。道理(だうり)をよく〳〵わきまへて少(す)しも父母(ふぼ)の