翻刻!江戸の医療と養生

コレクション: 模範解答付きコレクション1

昔話稲妻表紙 - 翻刻

昔話稲妻表紙 - ページ 59

ページ: 59

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とりひらき見れば。蜘手(くもで)の方(かた)花形丸(はながたまる)。両人(りやうにん)を呪咀(しゆそ)するの願文(ぐわんもん)にて。銀杏(いてふの) 前(まへ)月若(つきわか)両人(りやうにん)願主(ぐわんしゆ)の名(な)あり。しかも銀杏(いてふ)の前(まへ)の自筆(じひつ)をもつてかき たれば。うたがふべうもあらず。貞国(さだくに)忽(たちまち)怒気(いかり)心頭(しんとう)におこり。面色(めんしよく)変(へん)じて。 しばらくものもいはざりけるが。先(まづ)頼豪院(らいがういん)に。呪咀(しゆそ)をはらひのぞく修法(じゆほふ)を頼(たのみ) けるにより。蜘手(くもで)の方(かた)の病症(びやうしやう)に壇(だん)をかざりて。災禳(さいしやう)の法(ほふ)を修(じゆ)し。かの 藁人形(わらにんきやう)は釘(くぎ)をぬき。護摩(ごま)の火中(くわちう)に投(たう)じて。焼(やき)すてたり。かくて蜘手(くもで)の方(かた)。 やう〳〵快気(くわいき)の体(てい)をなし。貞国(さだくに)にむかひていひけるは。妾(わらは)ことかねて銀杏前(いてふのまへ) 母子(ぼし)を。実(じつ)の娘(むすめ)実(じつ)の孫(まご)といつくしみ。何(なに)とぞ桂之助(かつらのすけ)の勘当(かんとう)をゆるし たまふか。さらずば。月若(つきわか)を家督(かとく)にしたまふやうにと。それのみ宿願(しゆくくわん)なるに。 かれらはかへりて妾(わらは)を継母(まゝはゝ)といみきらひ。若(もし)花形丸(はなかたまる)家督(かとく)にならんこともやと。 さきぐりして。妾(わらは)親子(おやこ)を呪咀殺(のろひころさ)んとは計(はかり)候ならん。美麗(うつくしき)顔(かほ)して心は 鬼(おに)よりもなほおそろしく候。こひねがはくは。妾(わらは)親子(おやこ)にはやくいとまをたまはり。 尼法師(あまほふし)ともなし玉はれかし。我(われ)々かくてあらば。ついにはかれらが生霊(いきりやう)にとり 殺(ころ)され候らはめ。などてさばかり妾(わらは)親子(おやこ)を忌(いみ)きらふぞ。情(なさけ)なき銀杏前(いてふのまへ)やと いひて。涙(なみだ)を滝(たき)のごとく流(なが)しぬ。此時(このとき)花形丸(はながたまる)は年(とし)已(すで)に十六才。いまだ了角(つのがみ) にてありけるが。母(はゝ)の悪性(あくせい)には露(つゆ)ほども似(に)ず志(こころさし)正(たゞ)しき生(うま)れなり。素(もとより)母(はゝ) の非望(ひぼう)をしらず。此日(このひ)の子細(しさい)を聞(きゝ)て大に歎息(たんそく)し。かゝる凶事(きようじ)のいでくる こと。皆(みな)これ某(それがし)が誤(あやまり)なり。檀弓篇(だんきうのへん)に。昆第(こんてい)の子(こ)は猶(なほ)己(おのれ)か子(こ)のごとしといへり。 某(それかし)月若(つきわか)に対(たい)して。鄧(とう)伯道(はくだう)がごとき志(こゝろざし)なきゆへなりとて深(ふか)く悲(かなし)みけり。 判官(はんぐわん)貞国(さだくに)蜘手(くもで)の方(かた)の恨(うらみ)の詞(ことば)。花形丸(はなかたまる)が理(ことわり)おほき詞(ことは)を聞(きゝ)て。銀杏前(いてふのまへ) 母子(ぼし)を益(ます〳〵)にくみ。親(おや)を呪咀(しゆそ)する大罪人(たいさいにん)。片時(へんし)もたすけおきがたしとて。黒星(くろほし) 眼平(がんへい)といふものをめし出(いだ)し。銀杏前(いてふのまへ)月若(つきわか)両人(りやうにん)の首(くび)打(うつ)て来(きた)れと