← 前のページ
ページ 70 / 192
次のページ →
翻刻
昔話(むかしがたり)稲妻(いなつま)表紙(びやうし)巻之三
江戸 山東京伝編
九 辻堂(つちとう)の危難(きなん)
かくて山(さん)三郎は。銀杏(いてふ)の前(まへ)をせおひ。生駒山(いこまやま)を越(こへ)て。河内(かはち)の国(くに)におちゆかんと。
東(ひがし)の麓(ふもと)。竹林寺(ちくりんじ)ちかきあたりまで。逃来(にげきた)りけるに。追人(おひて)ども明松(たひまつ)を
ふりてらして。近(ちか)々とおひつきければ。姫君(ひめぎみ)にあやまちあらんことを
おそれ。傍(かたはら)の辻堂(つぢどう)のうちに。おろしおきて引返(ひきかへ)し。追人(おひて)の大勢(おゝぜい)に向合(むかひあひ)て。
権(しばらく)戦(たゝかひ)けるが。追人(おひて)ども山(さん)三郎が猛(たけき)勢(いきほひ)におそれ。秋(あき)の木(こ)の葉(は)の散(ちる)ごとく。
四方(しはう)に乱(みだ)れて逃去(にげさ)りぬ。山(さん)三郎 今(いま)は心(こゝろ)安(やす)しと。辻堂(つぢどう)にかへりて見
れば。こはいかに銀杏(いてふ)の前(まへ)はおわさず。月(つき)の光(ひか)りによく見れば。堂上(どうしやう)の塵(ちり)
のなかに。足(あし)のあとあり。扨(さて)は追人(おひて)どもの計(はかりこと)にて。我(わが)戦(たゝかふ)ひまに。姫君(ひめぎみ)を