翻刻!江戸の医療と養生

コレクション: 模範解答付きコレクション1

昔話稲妻表紙 - 翻刻

昔話稲妻表紙 - ページ 71

ページ: 71

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奪去(うばひゆき)つるに疑(うたがひ)なし。姫君(ひめぎみ)を奪(うばゝ)れて。なに面目(めんぼく)にながらふべきと心(こゝろ)を 決(けつ)し。刀(かたな)をとりなほして。ほど〳〵腹(はら)につきたてんとしたる折(をり)しも。僕(しもべ) の鹿蔵(しかぞう)。総身(そうしん)朱(あけ)に染(そま)りながら走来(はせきた)り。此体(このてい)を見ていそがはしくおし とゞめ。大息(おゝいき)つきて。不破(ふは)伴(ばん)左衛門。笹野(さゝの)蟹蔵(がいぞう)。藻屑(もくづの)三平(さんへい)。土子(つちこ)泥(でい) 助(すけ)。犬上(いぬがみ)雁八(がんはち)等(ら)。四人(よにん)の者(もの)をかたらひ。草履打(そうりうち)の宿恨(しゆくこん)により。人(ひと)たがへ にて。三郎左衛門を打(うち)たる子細(しさい)を。涙(なみだ)ながらに物語(ものがたり)ければ。山(さん)三郎大に驚(おどろき)。 旦(かつ)怒(いか)り旦(かつ)悲(かなし)み。涙(なみだ)滝(たき)のごとくはふりおちて。しばし詞(ことば)もいでざりけり。 良(やゝ)ありていひけるは。今日(けふ)はいかなる悪日(あくにち)ぞ。おん館(やかた)の騒動(そうどう)といひ。姫君(ひめぎみ) を奪(うばひ)とられ。しかのみならず。伴(ばん)左衛門 某(それがし)を打(うた)んとて。誤(あやま)りて親人(おやびと) を打(うち)たる事(こと)。思へば某(それがし)が手を下(くだ)して親人(おやびと)を打(うち)たるも同然(どうぜん)なり。死(しぬ)も死(し)なれ ぬ今夜(こんや)の仕義(しぎ)也。一ツには姫君(ひめぎみ)をとりもどして奸臣等(かんしんら)を亡(ほろぼ)し。若(わか) 君(ぎみ)をもり立(たて)て御家督(ごかとく)とし。二ツには伴(ばん)左衛門 等(ら)五人の者(もの)を打(うち)とりて。 父(ちゝ)の霊前(れいぜん)に手向(たむけ)。冥途(めいど)の恨(うらみ)をはらさせ申さでは。忠孝(ちうかう)の道(みち)全(まつた)からず。 今(いま)は二つも三つもほしき命(いのち)なるぞや。さるにても親人(おやびと)の亡骸(なきから)をもとめ。 せめてかりの葬(ほうふ)りせん。彼所(かしこ)へ案内(あない)せよ鹿蔵(しかぞう)とて。すでに立出(たちいで)んと したる所(ところ)に。此辺(このあたり)の百姓等(ひやくしやうら)とおぼしく。明松(たいまつ)を前(さき)にたて。戸板(といた)のうへに 屍(しかばね)をのせ。蓑(みの)打(うち)かけてかゝげつゝ。みればよしありげなる。武士方(ぶしがた)と 見ゆるが。むごたらしう殺(ころ)されたる事(こと)よ。衣服(いふく)大小(だいしやう)懐中物(くわいちうもの)提物(さげもの)など。 その侭(まゝ)にあれば。盗人(ぬすびと)の仕業(しわさ)ともおぼへず。片時(へんし)もはやく郡司(ぐんし)に申し きこへて。我(われ)々があやまりにならぬ様(やう)。いそげ〳〵と口(くち)〴〵にいひて来(きた)り ぬ。山(さん)三郎 立(たち)より。此方(このほう)に思ひあたる事(こと)あれば。その死骸(しがい)見せくれよと いひつゝ。蓑(みの)をとりて見れば。むざんや三郎左衛門。身体(しんたい)寸(ずん)々にきざ