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まれ。脇腹(わきばら)より五臓六腑(ごぞうろつぷ)みだれ出(いて)て。鮮血(なまち)戸板(といた)にながれけり。
山(さん)三郎ひと目(め)見るより。悲難(ひたん)の涙(なみだ)にむせかへり。地上(ちしやう)に噇(どう)とたふれ
伏(ふ)す。鹿蔵(しかぞう)百姓等(ひやくしやうら)にむかひ。此(この)屍(しかばね)は当国(とうごく)佐々木殿(さゝきどの)の御内(みうち)に三郎左衛門
といふ人なり。これなるは則(すなはち)その子息(しそく)なれば。此(この)死骸(しがい)は此方(このかた)へ渡(わた)すへし。
少(すこし)も汝等(なんぢら)が越度(おちど)になる事(こと)にあらずといひければ。百姓(ひやくしやう)ども死骸(しがい)の
衣服(いふく)の紋所(もんどころ)と。山(さん)三郎が衣服(いふく)の紋所(もんどころ)と。おなじ三 本傘(ぼんがさ)なるをみて。
さては相違(さうい)あるまじと安心(あんしん)し。郡司(ぐんし)の前(まへ)に持出(もちいで)んより。こゝにて
事(こと)をすまさんは。我(われ)々が仕合(しあはせ)なりと納得(なつとく)し。死骸(しがい)を渡(わた)してたちかへりぬ。
かくて山(さん)三郎。なげきてかへらぬことなれば。鹿蔵(しかぞう)にあたりの流水(りうすい)を
汲(くみ)とらせて屍(しがい)を清(きよ)め。後日(ごにち)改葬(かいそう)するまでは。権(しばら)くこゝにかくすべしと。
辻堂(つぢどう)の板敷(いたじき)をとりのけて。床(ゆか)の下(した)を深(ふか)く堀(ほり)。屍(しがい)を埋(うづみ)てもとの如(ごと)くなし
おき。香炉(かうろ)の灰(はい)をすてゝ水(みつ)を手向(たむけ)。本尊(ほんぞん)の石仏(せきふつ)にむかひ。南無(なむ)宝珠(ほうじゆ)
地蔵菩薩(ちぞうぼさつ)。悪趣(あくしゆ)の苦患(くげん)を救(すくひ)玉へと念(ねん)じつゝ。なほも涙(なみだ)はとゞまら
ず。此時(このとき)三郎左衛門がおびたる刀(かたな)は。重代(ぢうたい)の左文字(さもじ)の刀(かたな)。二千五百 貫(くわん)
の折紙(おりかみ)つきたる名作(めいさく)なりしが。せめてのかたみと取(とり)おさめ。懐中物(くわいちうもの)提物(さげもの)と
ともに。鹿蔵(しかぞう)に持(もた)しめければ。鹿蔵(しかぞう)いひけるは。弟(おとゝ)猿(さる)二郎 事(こと)。仕(つかへ)を辞(じし)て
後(のち)。河内(かはち)の国(くに)に住(すみ)候へば。一且(ひとまづ)彼地(かのち)におん越(こし)あるべしといふ処(ところ)へ。三郎左衛門が
乗馬(じやうめ)いつさんに馳来(はせきた)り。山(さん)三郎が前(まへ)に頭(かしら)をたれて。涙(なみだ)を流(なが)しければ。
山(さん)三郎その為体(ていたらく)を見て胸(むね)ふさがり。汝(なんぢ)親人(おやびと)の秘蔵(ひそう)ほどあり。我(わが)居(おる)
所(ところ)をしたひ来(き)て。愁膓(しふしやう)の体(てい)。人にもまさりしふるまひなりとて鬣(たてがみ)をかき
抚(なで)つゝいひけるは。昔(むかし)呉(ご)の孫堅(そんけん)董卓(とうたく)と戦(たゝかひ)て利(り)を失(うしな)ひ。馬(うま)より落(おち)て
草中(そうちう)に臥(ふす)。衆軍(しゆうぐん)分散(ぶんさん)してその在所(ざいしよ)をしらず。然(しかる)にかの馬(うま)営中(ゑいちう)に